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なぜ企業は噴火に備えなければいけないのか

掲載:2020年11月06日

改訂:2022年07月12日

執筆者:長内 麗奈

改訂者:ニュートン・コンサルティング 編集部

コラム

近年、世界中で地震、風水害などの自然災害が頻発し、あわせて新興感染症の流行も繰り返されています。地震をはじめとして、風水害を想定リスクとした事業継続計画(BCP)のほか、様々なリスクに対応できるよう最近では「オールハザードBCP」を策定する企業も増えてきました(オールハザードBCPとは、オールハザード、すなわち、様々な危機事象において利用できる事業継続計画のことです。詳細はこちらの記事をご覧ください)。ただ、 初動対応(人命保護・対策本部活動)においては、事象を考慮した対応の検討が不可欠です。

では皆様は「火山噴火」に対して、どのような備えをされていますか?「火山噴火」とはどの程度のリスクなのか。火山噴火は企業活動にどのような被害をもたらすか、被害を最小限にとどめるために企業が備えるべきポイントは何かを解説したいと思います。

         

火山噴火とは

火山噴火とは、火口から溶岩が流出する、もしくは火口の外へ火山灰等の固形物を放出する現象のことを言います。噴火はあくまでも火山現象のひとつであり、災害の要因となる主な火山現象には、噴石、火砕流、溶岩流、火山ガス、火山灰、土石流などがあります。火口から離れた場所に位置している場合でも、遠方まで影響のある火山ガス、火山灰、土石流などには注意が必要です。日本では「おおむね過去1万年以内に噴火した火山」「現在も活発な噴気活動のある火山」が活火山と定義され、現在111の活火山が監視・観測対象とされています。

火山噴火と主な被害の事例

20世紀において最大規模となる鹿児島県・桜島の大正大噴火(1914年1月12日)をはじめ、日本では幾度となく火山噴火が発生しています。噴火の周期は他の災害に比べ長いものの、2000年以降は、噴火の規模を問わず、活発な火山活動が観測されています。なかでも2014年に発生した御嶽山(長野・岐阜県境)の噴火では58人が死亡、5人が行方不明となりました。当時は噴火警戒レベル1「平常」であったため、多くの登山客が登頂していました。
※御嶽山噴火以降、噴火警戒レベル1の定義は「平常」から「活火山であることに留意」に変更されました

表1 2000年以降に発生した被害をともなう噴火事例
火山名 噴火活動年月日 主な被害
有珠山
(北海道)
2000年3月31日~9月
  • 最大1万5815人が約30カ所の避難所へ避難したが人的被害はなかった
  • 熱泥流により、橋、町営温泉、図書館が破壊されたほか、地殻変動により国道230号と周辺の建物などが破壊された
  • 噴火場所が一部居住地にかかっていたために道路や上下水道が寸断され、850戸の家屋に被害が生じた
桜島
(鹿児島県)
2006年6月4日~現在
  • 南岳東斜面の昭和火口付近では58年ぶりとなる噴火が発生
  • 2008年2月6日には火砕流をともなう噴火が発生し、7月28日の噴火では熊本県芦北地方まで降灰
  • 2013年9月4日から25日、噴石により火口から約4~8km離れた鹿児島市内の自動車十数台のガラスが破損(人的被害はなし)
霧島山
(鹿児島県)
2011年1月19日~現在
  • 多量の降灰のほか、空振(噴火に伴う空気の振動が周囲に伝わる現象)により霧島市で窓ガラス等が破損
  • 2月14日には宮崎県小林市に小さな噴石が落下し、自動車のサンルーフ等が破損
  • 4月18日の噴火では、宮崎県高原町に小さな噴石が落下し、太陽熱温水器や太陽電池パネルが破損
  • 2017年10月11日、2018年3月6日に再度噴火が発生
御嶽山
(長野県)
2014年9月27日
  • 噴火の3週間前から火山性地震が増加などの兆候あり
  • 登山客58人が死亡、5人が行方不明、69人が重軽傷を負った
  • 高速道路や国道の複数区間が通行止めとなったほか、噴煙により、羽田空港発着の航空便に一部遅延や欠航が発生、成田空港着の国際線も関西国際空港へと目的地を変更する便が発生した
口永良部島
(鹿児島県)
2015年5月29日
  • 1月24日に一時的に地震が増加、3月頃からは山体浅部を震源とする地震がやや増加し始め、5月23日に震度3を観測した
  • 5月29日に噴火が発生し、6月18日には島全域で停電が発生した
阿蘇山
(熊本県)
2016年10月8日
  • 熊本、大分、山口、広島、岡山、兵庫、香川、愛媛、高知、徳島各県の広範囲で降灰が確認された
  • 降灰、降雨により、阿蘇市をはじめとして一時約2万7000戸が停電し、停電時間は最長で約5時間半に及んだ
草津白根山
(群馬県)
2018年1月23日
  • 約3000年ぶりの噴火により草津国際スキー場に噴石が落下、1人が死亡、11人が重軽傷を負い、スキー場の山頂付近に約80人が取り残された
  • 当時の噴火警戒レベルは1
福徳岡ノ場
(東京都小笠原諸島の海底火山)
2021年8月13日
  • 海底火山の噴火によって噴出された大量の軽石などが沖縄本島に漂着
  • 船の航行や漁業、観光業に影響が出た
※気象庁他参考文献を基に著者にて作成

 

火山噴火によるインフラや経済活動への影響

火山噴火は直接被害のほか、インフラや企業活動にも大きな影響を与えます。日本では、停電、入山禁止による観光客の低下による経済損失が発生し、海外でも火山噴火での航空便の欠航により、ヒト、モノの移動に大きな影響を与えました。

アイスランドでの噴火による影響(2010年3月:エイヤフィヤトラヨークトル氷河)

2010年3月21日未明から噴火し、4月15日朝の大規模な噴火による大量の火山灰の影響で、航空便欠航や空港閉鎖が発生しました。影響範囲は、ロンドン、スコットランド、北アイルランド、フランス、オランダ、ノルウェー、イタリア、アイルランドなど、約30ヵ国に及びました。また、ヨーロッパ方面から日本に向けた便の欠航が4月20日まで続くなど、噴火の影響で欠航した便は延べ10万便以上、世界中で600~700万人が立ち往生する大混乱を招きました。

バリ島での噴火による影響(2017年~2018年:アグン山)

2017年9月22日、アグン山の警戒レベル引き上げにより外国人観光客が前月と比べ約16%減少し、飛行機やホテルのキャンセルが急増しました。11月21日の噴火により、27日から3日間ングラ・ライ国際空港が閉鎖、外国人4万4000人、インドネシア人4万4000人が渡航をキャンセルし、観光分野で2090億ルピア(約18億円)の損失が生じました。9月末から噴火直前までのバリ島での経済損失は20兆ルピア(約1660億円)に上りました。また、噴火後から12月末までの損失は9兆ルピア(約750億円)に上るとされました。2018年6月28日の噴火でも、同じく国際空港が閉鎖され、29日の再開までに国際線の207便を含む446便が欠航、約7万5000人の乗客が影響を受けました。

フィリピンでの噴火による影響(2020年1月:タール山)

2020年1月12日の噴火により、マニラ首都圏のニノイ・アキノ国際空港が離着陸を一時停止し、日本便を含めた航空便欠航が発生しました。噴火により、1月27日の通常運航再開までに、延べ643便が欠航しました。また、マニラ首都圏およびその近郊では、政府系機関の休業や学校の休校、日系企業の多くが休業したほか、1月20日から計20市で一時停電が生じ、回復するまでに1週間を要しました。

トンガでの噴火による影響(2022年1月:フンガ・トンガ フンガ・ハアパイ火山)

2022年1月15日に噴火し、トンガでは火山灰が積もり津波の被害が出ました。被害の全容はまだ分かっていませんが多くの貯水タンクが被害を受け、飲料水の確保が急務であると報道されています。また、日本では気象庁が当初、津波による被害の心配はないと判断していましたが実際に潮位の変化を観測して一転しました。日付が変わった16日0時15分、太平洋側の各地に「防災上の観点から津波警報の仕組みを使って防災対応を呼びかけているもの」として津波警報や津波注意報を発表する異例の事態となりました。これは地震に伴い発生する通常の津波とは異なる潮位変化が観測されたためで、専門家によりますと「大気と海洋の共鳴によって発生した」などと推定されました(※1)。

もし富士山が噴火したら? 被害予想とその影響

富士山は1707年の宝永噴火以来約300年噴火していませんが、活火山として継続的な監視・観測が行われています。「富士山火山防災対策協議会」では2021年3月、17年ぶりに富士山ハザードマップを改定し公表しました。2004年のハザードマップ策定以降に噴火実績や噴火口跡について新たなデータが得られ、分析などが進んだためで、被害想定は従来と比べて、想定火口範囲が拡大し、地域によっては溶岩流の到達時間が早まりました。火砕流についても、シミュレーションを約4倍に増やした結果、到達距離が長くなる想定に変わりました。富士山ハザードマップの改定について詳細はこちらの記事をご覧ください。

富士山噴火では、上記直接被害はもちろんのこと、首都圏においては降灰による被害に特に注意が必要です。既に、富士山での大規模噴火が発生した場合に生ずる首都圏への被害想定は政府の中央防災会議から公表されています (報告書「大規模噴火時の広域降灰対策について」)。それによりますと、広範囲での降灰により鉄道、道路、物資、人の移動、電力、通信、上下水道、建物などに甚大な被害が予想されています。また、上記に伴う人員の不足、降灰が引き起こす停電による業務停止、物流のマヒなどが発生し、企業活動にも大きな影響を与えることが予測されています。

図1 降灰予想図

出典:内閣府 「降灰シミュレーションのパラメータと計算結果」大規模噴火時の広域降灰対策について ー首都圏における降灰の影響と対策ー~富士山噴火をモデルケースに~(報告)【別添資料1】

 

表2 降灰による具体的な被害
大分類 中分類 主な被害
交通インフラ 道路
  • 視界不良による通行不能
  • 緊急交通路の通行止め
  • 視認障害による速度低下、および鉄道・航空交通の停止による需要の増加による渋滞
  • スリップ事故、それにともなう滞留車両の発生
鉄道
  • レール埋没、停電・電力供給不安定による運休
  • 通電不良による車両位置の検出・踏切動作不良
  • 地上線の運休のため、地下鉄需要の増加による車両・作業員不足による輸送力低下
航空
  • 滑走路除灰作業にともなう欠航
  • 火山灰空域の迂回・到着空港の変更
  • 迂回にともなう運航可能便数の制限
船舶
  • 視界不良による東京湾内の航行停止
  • 船舶損傷回避のため、降灰海域での迂回・航路外待機
ライフライン 電力
  • 停電の発生
    • 降雨時は、3ミリ以上の降灰で発生
上水道
  • 降灰のため浄水施設の機能低下による水道水の汚染または断水
  • 停電による浄水・配水施設の稼働停止にともなう断水
下水道
  • 降雨時、雨水管の閉塞による雨水の氾濫
  • 停電エリアにおける下水処理施設の非常発電設備の燃料切れにともなう使用制限
通信
  • 利用者増加による電話、インターネットの輻輳
  • (降雨時)基地局等の通信アンテナへの火山灰付着による通信障害
  • 停電エリアにおける基地局等の非常用発電設備の燃料切れにともなう通信障害
建物・施設設備
  • 木造家屋の倒壊(降雨時 30cm 以上の堆積)
  • 倉庫、体育館等の長い屋根の建物の損壊(積雪荷重を超える降灰時)
  • 空調設備の室外機や非常用発電機のフィルタ目詰まりによる不具合
人の動き
  • 鉄道、周辺道路の渋滞による一時滞留者の発生
物資
  • 買い占め等による店舗の食料・飲料水等の売り切れ
  • 配送困難、店舗等の営業困難による生活物資の不足
出典:中央防災会議「大規模噴火時の広域降灰対策について―首都圏における降灰の影響と対策―~ 富士山噴火をモデルケースに ~」

 

企業が備えるべきポイント

上記のことから、噴火による被害は企業活動にも大きな影響をもたらします。地震や風水害への備えと同じように、火山噴火へも備えが必要です。

1.活火山分布を確認し、近隣に活火山があるかどうかを確認する

自拠点の近くに活火山があるかどうかを確認しましょう。自社の企業活動を阻害する要因が、噴石や火砕流なのか、降灰によるのかによって備えるものや決めるべきルールが異なります。活火山分布図は気象庁のホームページ(※2)から確認できます。

2.ハザードマップを確認し、対象活火山の「噴火警戒レベル」を把握しておく

レベルに応じた対応やその対象範囲は活火山によって異なります。ハザードマップは各自治体の防災関連のホームページのほか、防災科研(※3)からも確認できます。火山噴火発生時の避難を想定した避難場所・避難所が特別に指定されている場合もあります。では、日本の企業にとって特に影響の大きい変更点をご紹介します。

表3 噴火警戒レベルが運用されている火山についての噴火警報及び噴火予報

出典:気象庁「噴火警戒レベルの説明」

 

※噴火警戒レベルが運用されていない火山が近隣にある場合は下表を参考に噴火警報発令時の動きを確認しておきましょう

表4 噴火警戒レベルが運用されていない火山についての噴火警報および噴火予報

出典:気象庁 パンフレット「火山 - その監視と防災 -」

 

3.火山ガス予報、降灰予報があることを把握しておく

噴火警報、噴火速報のほか、注意が必要な火山現象については気象庁から都度情報が提供されます。適切な行動のための情報収集先を日頃から把握しておくことが重要です。

4.降灰シミュレーションを確認し、自拠点に影響があるか確認しておく

特に関東圏に位置する企業の場合は、富士山や浅間山の降灰シミュレーション(またはハザードマップ)を確認して、自拠点にどれほどの影響があるかを確認しておくことが大切です。

5.火山噴火を想定したタイムラインを作成しておく

風水害への対策と同じように、火山噴火に対しても、噴火前から噴火後の活動をタイムライン(時系列)で整理しておくことが推奨されます。いつどこに避難するか、帰宅困難・通勤困難な状況になった場合はどうするか、こうした初動のルール決めはもちろんのこと、本社が降灰の被害地域にある場合、その業務をどの時点で他拠点へ代替・継続するか、といった事業継続の側面での検討も大切になります。特に降灰時は、広範囲で停電や物流網のマヒが想定されるため、大地震発生時と同様に日頃の備えと訓練が重要です。

火山噴火は地震や風水害、感染症より発生確率の低い災害ですが、火山大国日本では企業が備えるべき災害のひとつです。企業活動を阻害する要因に火山噴火は含まれるのかどうか、いざという時に「想定外だった」とならないためにも、まずは最悪の事態を想定して、自拠点に影響のある火山はないか、火山がある場合はタイムラインの作成など、実行可能な対策から始めませんか。

参考文献
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