リスク管理Naviリスクマネジメントの情報サイト

SA8000

掲載:2016年09月28日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

ガイドライン

SA8000とは、従業員の権利の行使、及び、従業員の保護を図ることを目的に掲げた規格です。なお、SA8000は、国連人権宣言やILO 条約※1、その他の国際的な人権・労働規範、及び労働に関する国家法規に基づいた監査・審査の実施が可能な規格です。SAI※2により1997年に初版が発行され、現在にいたるまで数回の改訂※3が行われています。
ちなみに、SA8000の最新版はSAIのサイトにて無償で入手することができます。

※1. ILO条約のILOとはInternational Labour Organizationの略称であり、国際労働機関のことです。従って、ILO条約とは、この組織の加盟国が批准する条約形式の国際的な労働基準を指します。
※2. SAIはSocial Accountability Internationalの略称であり、社会的責任標準の開発や改善を通じて労働環境やコミュニティの改善を図ることを目的とした国際的非政府系組織です。
※3. 本稿執筆の2016年9月現在、最新版は第四版2014年度版となっています。

         

SA8000が誕生した背景

SA8000が誕生した理由は、労働環境のあり方に関して、行動指針はおろか、慣行や規律、法規制などが世界各国で、ばらばらに存在していたことにあります。もともと、東南アジアでの米国企業による児童労働や強制労働、低賃金を問題視していた米国自らが、その必要性を強く認識していたこともあり、米国の団体(のちのSAI)によって、SA8000が策定されました。労働環境のあり方の標準化を通じて、雇用者すなわち企業側の労働環境改善への取り組みのハードルを下げ、全ての従業員の権利の行使や従業員の保護の促進を狙ったのです。
 

SA8000の構成

SA8000は約15ページの文書です。下記に示す全9章から構成されています。
 
  1. 児童労働
  2. 強制労働
  3. 健康と安全
  4. 結社の自由と団体交渉権
  5. 差別
  6. 懲罰
  7. 労働時間
  8. 報酬
  9. マネジメントシステム
章ごとに、「~しなければならない」という記述で、企業が順守すべき基準が定められています。下記は「児童労働」に関する具体的な記述例です。
 
1. 児童労働
基準:
1.1 組織は、先に定義された児童労働に携わったり、それを支援してはならない。
1.2 組織は、児童労働者の救済のための、文書化された方針および手順書を確立し、文書化し、維持し、かつ従業員その他の利害関係者に効果的に周知しなければならない。また、そのような児童が、先に定義した児童の年齢を超えるまで、学校教育を受けることができるように適切な経済的及びその他の支援を提供しなければならない。
1.3 組織は年少労働者を雇用してもよいが・・・(以下、略)

SA8000を取り巻く規格

SA8000は認証基準ですが、これを補完するガイダンス文書や、パフォーマンス指標の附属書(Performance Indicator Annex)が発行されています。それぞれ、次のような狙いを持って発行されています。

【表:SA8000を取り巻く規格】
種別 邦訳版 狙い
SA8000(基準)
(SA8000 Standard)
あり 監査や認証基準としての活用
SA8000ガイダンス文書
(SA8000 Guidance Document)
なし SA8000標準を満たすための実践的な手法例の紹介
SA8000パフォーマンス指標の附属書
(SA8000 Performance Indicator Annex)
なし SA8000が示す標準に対する具体的な達成基準例の紹介

 
「SA8000ガイダンス文書」は140ページにわたる分厚い内容となっており、非常に丁寧な解説がなされています。また、「SA8000パフォーマンス指標の附属書」はSA8000に対する具体的な達成基準例を紹介しています。たとえば、先の例でとりあげた「児童労働」に関しては、達成基準(例)として、次のようなパフォーマンス指標を提示しています。
 
  1. 生産労働エリアに、子供の姿が認められないこと
  2. 採用プロセスにおいて偽造IDを受領しないこと
全ての労働者の年齢を証明する検証可能な記録を維持していること
ISO26000は、「社会的責任に対する手引」を示した国際規格です。そのタイトルから推察できるとおり、社会的責任(CSR)全般を対象範囲とした規格です。また“手引”ですから、第三者認証などに使用することを前提としたものではなく、あくまでも参考書的な用途が中心となります。一方、SA8000は、社会的責任の中の「社会的説明責任」を対象範囲としています。なお、社会的説明責任とは、企業の倫理的側面、特に労働者の人権や雇用環境などのことを指します(※下表参照)。さらに、ISO26000とは異なり、第三者認証にも活用することができる規格です。

 
【表:ISO26000においてSA8000がカバーしている範囲】
テーマ SA8000 テーマ SA8000
6.2 組織統治 × 5.2 社会的責任の認識
6.3 人権 5.3 ステークホルダーの特定及びステークホルダー・エンゲージメント
6.4 労働慣行 7.2 組織の特性と社会的責任との関係 ×
6.5 環境 × 7.3 組織の社会的責任の理解
6.6 構成な事業慣行 7.4 組織全体に社会的責任を統合するための実践
6.7 消費者課題 × 7.5 社会的責任に関するコミュニケーション
6.8 コミュニティへの参画及びコミュニティの発展 × 7.6社会的責任に関する信頼性の向上
    7.7 社会的責任に関する組織の行動及び慣行の確認及び改善
 

OHSAS18001は労働安全衛生に関するマネジメントシステム規格です。SA8000にも労働安全衛生に関する記述はあります。したがって、OHSAS18001はSA8000の中の1つのテーマに特化している規格と言えます。また、OHSASにて考慮する法規制はその企業が企業を取り巻く環境に鑑みて特定する必要があるのに対し、SA8000では既にILO条約をはじめとする国際的な法規制が取り込まれていることから、企業が実施すべきことについて詳しく言及されている点が大きく異なります。

ISOマネジメントシステムとの融和性

先述のとおりSA8000は、SAIが発行した規格です。ゆえにISOが発行しているISO9001をはじめとしたISOマネジメントシステム規格との融和性が、どうであるかが気になるところです。
 
事実、SA8000の建て付けは、ISOマネジメントシステムとは異なります。たとえば、ISOマネジメントシステムでは、活動の最初に「組織を取り巻く内外の課題特定」を行うことを求めていますが、SA8000にそのような定めはありません。他方、表現は異なりつつも、リスクアセスメントの実施やパフォーマンス評価、マネジメントシステムなど、SA8000の中にもISOマネジメントシステムで求められているような要求事項があり、実質的にはISOマネジメントシステムの考え方と非常に近いものだと断定できます。
 
したがって、ISOマネジメントシステムとの統合運用は十分に可能であると言えるでしょう。
 

SA8000の特徴と用途

これまでの内容を踏まえて、SA8000の特徴をまとめますと以下のとおりになります。
 
  • 労働環境のあり方に関して、国際的な法規制を幅広く取り込んでいる
  • 労働環境のあるべき姿実現にあたり、具体的な実践手法や評価基準を紹介している
  • 但し、SA8000(基準)のみ邦訳版が存在する
  • 第三者認証を受けることができる
 
第三者認証に関しては、認証取得組織は、全世界で55の業種、69の国に及び、企業数にして4000社近くになります。傾向としては、やはり労働環境に関して人権保護活動が進んでいる先進国ではとても少なく、やや遅れている東南アジアや東ヨーロッパなどでの取得数が目立ちます。
 
こうした特徴・傾向から、東南アジアや東ヨーロッパなど、人権や労働規範が問題になりそうな地域に進出している、または、進出しようとしている企業にとっては、コンプライアンスの徹底とブランド力の維持・向上といった観点から、SA8000が非常に有益な武器となるということができるでしょう。
当社のWebサイトでは、サイト閲覧時の利便性やサイト運用および分析のため、Cookieを使用しています。こちらで同意をして閉じるか、Cookieを無効化せずに当サイトを継続してご利用いただくことにより、当社のプライバシーポリシーに同意いただいたものとみなされます。
同意して閉じる