日本取締役協会は2月27日、「倫理問題から経営課題へ -人権尊重を企業経営の中核に据えるために-」と題した提言を発表しました。この提言は、フジテレビの性的トラブル事案を受けて、各企業に対する呼びかけとして公表されたものです。
2023年10月、日本取締役協会は、「経営者が人権尊重に関する企業責任を継続的に果たすための標準ガバナンスコード」を公表しました。この標準ガバナンスコードにより、企業が人権尊重を経営の基本原則として確立し、実効的な企業統治の仕組みを構築するための指針として広く適用することが期待されていました。こうした中で、フジテレビにおいて人権尊重の在り方が改めて厳しく問われる性的トラブル事案が発生し、極めて大きな社会的影響が生まれたことを指摘しています。
フジテレビの事案が、ガバナンス構造の欠陥を浮き彫りにしたものであったことをふまえ、この提言では各企業に向けて、人権尊重に対する認識を改めて見直し、グローバル・スタンダードに適合したコーポレート・ガバナンスと内部統制の強化を進めるよう呼びかけています。
人権侵害のない社会の実現に向けて、責任ある対応を継続的に実施する上で必要となるのが人権デュー・ディリジェンス(以下「人権DD」)です。人権DDとは、人権侵害リスクに関してPDCAサイクルを構築し、継続するプロセスです(Plan:人権侵害リスクの特定▽Do:防止・軽減▽Check:実効性の評価▽Action:必要に応じて改善や情報開示を実施)。
提言書では、人権DDに関してさまざまな重要ポイントが示されています。例えば人権リスクを特定する上では、国連の人権指導原則などをもとに、企業が事業特性を十分に考慮して人権リスクシナリオを更新し続けることを提言しています。また、人権方針の策定や人権DDは、ただ形式的に行うのではなく、実際に機能させることが重要であるという点も強調されています。
さらに、人権尊重は観念論や精神論ではなく、企業活動の仕組みとして実効的に運用される必要があるとしています。そして、自社が惹起し、または助長したとは必ずしもいえない人権侵害であっても、自社の事業・商品・サービスと直接関連するものであれば、正しく対処する責任を負うことを改めて認識するよう喚起しています。また、「組織に属する者の行動パターンが、個人や共同体の利害よりも社会的規範を優先するようなインセンティブ構造を変え、構成員に浸透させることこそが経営の責任である」という提言も記されています。