独禁法違反の懸念払拭へ、経済安保目的の企業連携で事例集を公表 公取委/経産省/国交省
公正取引委員会、経済産業省、国土交通省は11月20日、「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」を公表しました。経済安全保障の観点から企業間の連携が求められる場面について、独占禁止法上の考え方や判断基準を示しています。産業界の懸念を解消する目的で作成されました。
現在の安全保障環境では、重要物資の供給が止まるリスクや技術移転強要による技術流出リスクへの対応が急務となっています。こうした中、企業はサプライチェーンの維持や競争力強化を目的に同業他社との共同調達や事業再編、海外企業による買収提案に関する情報交換などを通じてリスクに対応することが重要視されています。しかし、産業界からはこうした企業間での連携が独占禁止法のカルテル規制や企業結合規制に抵触する恐れがあるのではないかと懸念の声が上がっていました。
今般公表された「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」で取り上げられている15の事例は産業界からの相談に基づき、経済産業省と国土交通省が提示したものです。内容は主に「情報交換」「共同行為」「企業結合」の3カテゴリーに分類されています。これら想定事例に対して公正取引委員会が考え方を明示しました。
一般に競合他社との情報交換はカルテル疑義を招くとされていますが、経済安全保障を目的としている場合、その必要性が認められるケースがあると示しました。技術流出の阻止やサプライチェーンの自律性維持といった目的であれば、海外事業者から業務提携・買収提案があることについて国内事業者間で情報交換することは、通常は独占禁止法上問題とならないと明記しました。
また、価格やサービスで競い合うべき企業同士の共同行為は、独占禁止法に抵触する恐れがあります。価格競争を阻害する行為は違法となりますが、供給途絶リスクがある重要物資(重要鉱物など)について単独での確保が困難である場合に競合他社と共同で調達を行うことは原則として独占禁止法上問題とならないとしました。
市場シェアが高まるM&Aは市場の競争をなくす可能性があるとして企業結合審査の壁が高くなります。しかし、経済安全保障上、重要な製品を製造している企業同士の統合については、グローバルな競争環境(輸入圧力)や、事業存続のための効率性などが審査における「考慮要素」として重視されるとの考え方を示しました。
このほか、想定事例の「その他」カテゴリーとして「他社との共同研究開発の制限」を取り上げています。