対口支援とは?応急対策職員派遣制度の仕組みと能登半島地震での活用
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
「対口(たいこう)支援」とは、大規模災害で被災した自治体と支援側の自治体がパートナーとなり、被災自治体の災害対応業務を人的に支援する手法です。「カウンターパート方式」とも呼ばれています。2008年に中国の四川大地震で用いられた復興促進策がもとになっており、中国語で「対口」はペアを意味しています。
大規模な地震や津波、台風などの災害が発生したとき、被災自治体を支える広域連携の取り組みが重要になります。なかでも被災自治体の機能補完という点で大きな役割を果たしているのが、東日本大震災で初めて本格的に導入された、対口支援です。
中国の復興促進策を参考、2018年に制度化
中国では1970年代末から政府により行われていた対口支援ですが、日本で注目されるようになったのは2008年の四川大地震です。中国政府は復興にあたり、被災した市町村と、被災せず経済発展の進んだ市や省などをペアにして支援の責任を負わせることで、大きな成果を出しました。
日本における対口支援の本格的な実施は2011年、東日本大震災です。関西広域連合は阪神・淡路大震災の際に全国から派遣された職員を活用しきれなかったことから対口支援を提案し、東日本大震災で被災した岩手、宮城、福島の3県を割り振り、担当制にして支援しました。
2018年に対口支援は国により、「応急対策職員派遣制度」として制度化されています。大規模災害発生時には総務省、地方三団体などで構成する「応援職員確保調整本部」が、被災都道府県や被災地域ブロックの幹事都道府県などと連携し、応援団体を調整します。対口支援チームについては、都道府県または指定都市を、原則として一対一で被災市区町村に割り当てます。都道府県が応援団体となる場合は、管内の市区町村と一体となって支援します。ただし、被害が甚大で多くの応援職員が必要となる場合には、複数の都道府県や指定都市から追加の応援職員が派遣されることもあります。
同年に発災した北海道胆振東部地震、2019年の房総半島台風、2020年の熊本豪雨のときなどにも実施され、割り当てられた自治体は避難所の運営や罹災証明書の交付など災害対応業務を支援しています。
応急対策職員派遣制度を構成する二つの支援チーム
応急対策職員派遣制度では、「総括支援チーム」と「対口支援チーム」が、それぞれ異なる役割を担います。
総括支援チーム
総括支援チームは、対口支援に先立つ先遣隊として被災地に入り、被害状況や応援職員のニーズを確認するとともに、被災市区町村の災害マネジメントを支援します。
チームは、災害対応業務の経験や知見を持つ災害マネジメント総括支援員、災害マネジメント支援員、連絡調整要員などで構成されます。災害対策本部の運営、各省庁との連絡・調整、応援職員の配置、今後必要となる業務や人員の見通しの整理などを支援します。
また、災害が実際に発生した後だけでなく、災害が発生するおそれがある段階から派遣できる仕組みとなっています。
対口支援チーム
対口支援チームは、被災自治体で不足するマンパワーを補うため、避難所の運営、支援物資の搬入、住家の被害認定調査、罹災証明書の交付、被災者支援・相談業務などを担います。
原則として、総括支援チームと対口支援チームはセットで派遣が決定されます。総括支援チームが全体の災害マネジメントや応援職員間の調整を支援し、対口支援チームが個別の災害対応業務を担うことで、被災自治体の行政機能を補完します。
対口支援のメリットは、迅速な初動対応と継続的な人的支援
2024年1月1日に発生した令和6年能登半島地震では、発災当日に総務省、地方三団体、指定都市市長会による「応援職員確保調整本部」が設置されました。1月3日から4日にかけて、石川県内の被災6市町に総括支援チームが入り、被害状況や人的支援ニーズの把握、災害マネジメントの支援を開始しました。
また、被災自治体から必要人数が示されるのを待たず、1月3日には石川県内の7市町に対するマンパワー支援が決定されました。その後、石川県、新潟県、富山県の被災自治体からの要請や総括支援チームが把握したニーズに基づき、全国の自治体から応援職員が派遣されました。
2024年3月21日時点では、石川県内14市町、富山県内3市、新潟県内1市に対し、60都道府県市から対口支援方式による支援チームが派遣されました。応援職員は、避難所運営、物資搬入、建物被害認定調査、罹災証明書の交付などに従事しました。
被災自治体の業務は平時の数十倍に膨れ上がるとされています。現地の職員自身も被災しているなかで、避難所の開設や家屋の被害調査、罹災証明書の交付といった発災直後の業務から、仮設住宅の建設や復興計画の策定など中長期的な業務も回していかなければなりません。
対口支援では被災自治体と支援自治体がペアを組むことで、初動対応が迅速化するだけでなく、支援の対象とそれぞれの責任分担を明確にできます。また、支援自治体が被災自治体の状況を継続的に把握することで、災害対応の段階や変化するニーズに応じ、必要な職種や人数を見極め、的確に職員を派遣できるようになります。
また、総括支援チームが被災自治体の災害対応体制を確認し、複数の応援団体や派遣職員間の役割分担を調整することで、大規模な人的支援を円滑に運用できる点もメリットです。応援職員が避難所運営や罹災証明書の交付などを担うことで、被災自治体の職員が災害対策本部の運営や住民対応など、本来優先すべき業務に注力しやすくなります。
対口支援を機能させるには受援体制の整備が不可欠
一方で、多くの応援職員が派遣されても、被災自治体側の受け入れ体制が整っていなければ、その能力を十分に生かすことはできません。応援職員に依頼する業務、指揮命令系統、庁内の受援担当者、執務場所、情報共有方法、必要な資機材などを、平時から整理しておく必要があります。
能登半島地震では、道路や宿泊施設などの被害により、応援職員の宿泊場所や移動手段の確保が課題となりました。特に奥能登地域では、金沢市などからの移動が困難となり、冬季の寒さや断水、感染症などにも配慮しながら活動環境を確保する必要がありました。
応援側の自治体には、食料、飲料水、装備、通信手段、宿泊場所などを可能な限り自ら確保する「自己完結型」の支援が求められます。一方、受援側の自治体にも、利用可能な宿泊施設や公共施設の情報提供、応援職員の活動場所の確保、派遣チームの交代時における円滑な引継ぎなどが求められます。
受援計画を平時から作成し、訓練で検証する
内閣府は2025年4月、「市町村のための人的応援の受入れに関する受援計画作成の手引き」を改訂しました。同手引きでは、応援職員を迅速かつ的確に受け入れるため、庁内全体および受援対象業務ごとに担当者を定め、受援対象業務や必要な資源を整理することを求めています。
受援対象業務としては、災害マネジメント、避難所運営、支援物資関連業務、災害廃棄物の処理、住家の被害認定調査、罹災証明書の交付、被災者支援・相談業務、公共土木施設の災害応急対策などが例示されています。
受援計画は、防災担当部署だけで作成するのではなく、実際に応援職員を受け入れる各部署を含め、全庁的に検討することが重要です。また、計画を策定するだけでなく、研修や訓練を通じて応援要請、受入れ、業務の割り当て、情報共有、交代時の引継ぎなどを確認し、継続的に改善することが求められます。
対口支援は、応援職員を派遣する側だけで成立する制度ではありません。被災自治体が平時から受援体制を整え、外部の人員や資源を災害対応に組み込む準備を進めておくことで、初めて効果的に機能します。