【解説】地震における「ガル」と「カイン」とは?両者の違い・耐震設計との関係・企業の対策で重視すべきポイント
| 執筆者: | 取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
地震の揺れを表す単位である「カイン(速度)」と「ガル(加速度)」。これらは震度とは異なる指標であり、建物の安全性を判断する上で極めて重要です。同じ震度でも被害状況に差が出る背景には、これらの数値の違いが大きく関わっています。本記事では2つの単位の違いや耐震設計との関連性、能登半島地震などの過去に発生した地震の観測値を踏まえ、企業の地震対策における活用法をわかりやすく解説します。
地震動の強さを表す「カイン」と「ガル」
地震の規模や揺れの強さを表す指標として、一般的によく知られているものには「震度」や「マグニチュード」がありますが、これらに加え、揺れの性質を正確に把握するために用いられるのが「カイン(kine)」と「ガル(gal)」です。これらは地震動の「速度」と「加速度」を表す単位です。
近年、建物の被害状況と相関関係を持つ指標として注目されており、カインとガルを用いることで、建物被害の予測精度が向上することが明らかになっています。そのため、被害想定だけでなく、工場や社屋の耐震化など、設備投資を行う際の重要な判断基準として重視されるようになっています。
前述の震度は、ある場所での地震の揺れの強さを10階級で表したものであり、震度計によって自動的に算出されます。マグニチュードは地震そのものの規模(エネルギーの大きさ)を数値で表したものです。
カイン(kine)とは揺れの「速度」を表す単位
カイン(kine)は、地震動の「速度」を示す単位であり、1カインは「1秒間に1センチメートル(1cm/s)」動く速さを意味します。例えば、10カインであれば1秒間に10センチメートル動く速さであることを示します。
なぜ「速度」が建物被害の指標になるのか
カインの大きさは、ガルの大きさよりも建物が受ける破壊力や被害の状況と一致することが知られています。東日本大震災では最大で100カインが観測されています。これは、1秒間に100センチメートルの距離を移動する速さを持った地震動であることを意味しています。1秒間に動く距離が大きいほど、建物は大きく揺さぶられるため、建物への影響度を測る指標の一つとして用いられています。
この最大速度の値が大きいほど建物に与えるエネルギーが大きくなり、住宅の全壊や倒壊といった深刻な被害につながるリスクが高まります。そのため、超高層建物や免震建物の設計においては、各自治体により25カインや50カインといった地震動レベルが設定されています。
ガル(gal)とは揺れの「加速度」を表す単位
一方ガル(gal)は、地震の揺れの「加速度」を表す単位です。1ガルは「1秒間に1cm毎秒毎秒(1cm/s2)」の変化を生じる加速度と定義されています。加速度とは速度の変化率のことであり、ジェットコースターの急発進で体が座席に深く押し付けられるような感覚が、加速度による力に相当します。
建物や設備にかかる力との関係
この地震動の加速度が建物に加わると、建物には「土台を急激に突き飛ばすような衝撃」が加わります。例えるなら、建物が乗っている地面という絨毯を、横から猛烈な力でいきなり引き抜くような力です。建物の上部は慣性によって現在の状態を維持しようとする力が働くため、足元だけが急加速することで構造に歪みが生じます。
このガルの値が大きい場合には、一瞬の揺れであっても柱や壁の保有水平耐力を超える巨大な負荷がかかり、家具の転倒や建物の損壊を引き起こす可能性が高まります。
ただし、最大加速度が大きいからといって必ず建物が倒壊するわけではありません。1秒以下の極めて短い周期の地震動(小刻みな振動)の場合、ガルが大きくても、建物の被害は少なくなる傾向があることが知られています。
カイン・ガル・震度の違いと建物被害
地震の揺れの大きさを示す指標には、カイン、ガル、震度の3つがあります。カインは揺れの速さを示す速度、ガルは地面の動きの勢いを示す加速度、そして震度はカイン、ガルなどを統合して算出される揺れの程度を指します。
気象庁が発表する震度は、観測された加速度波形データより算出された計測震度を基に導き出されます。計測震度を求める際には、カイン(最大速度)やガル(最大加速度)だけでなく、揺れの周期や、揺れの継続時間も考慮されます。つまり、観測地点のガルが大きくても、震度が大きくなるとは限らないことに留意が必要です。なお、震度階級は、算出した計測震度の値を震度階級表の値に照らして換算したものです。
建物への影響は、これら指標の性質によって異なります。速度を示すカインが大きい場合は、大きくしなるような揺れにより、建物の変形や倒壊などの深刻な被害が目立ちます。一方で、加速度であるガルが大きい場合は、鋭い瞬間的な揺れによって家具の転倒や設備の損壊などの被害につながりやすくなります。このように、震度は揺れの総体的な強さを、ガルとカインは建物に及ぼす負荷の質の違いを示す指標と言えます。
なお、計測震度の算出に用いられる地震動の周期には、長くゆっくりとした大きな揺れを伴う「長周期地震動」や、小刻みな揺れを伴う「短周期地震動」があります。このうち、短周期地震動は「1秒以下」と「1~2秒」の周期に分類され、「1~2秒」の周期は「キラーパルス」とも呼ばれます。キラーパルスは、木造住宅や中低層ビルの固有周期と共振しやすく、倒壊など構造的な被害を引き起こす可能性が高いとされ、阪神・淡路大震災などの過去の震災において、建物に甚大な被害をもたらしたと言われています。
図1:地震の揺れの大きさを表すカインとガルの違い
建物の耐震性との関係
カインとガルは建物の耐震性とも深く関わっています。
1981年6月に施行された「新耐震基準」では、主にガルを指標として地震の力に耐えられる強さを計算する設計手法が取られてきました。しかし、1995年の阪神・淡路大震災では、ガルの値以上に大きなカインを伴う揺れが建物を大きく変形・倒壊させたことが判明し、地震動におけるカインへの注目が高まるようになったのです。その後、2011年の東日本大震災では極めて高いガルが観測されたものの、カインが相対的に低かったため、建物自体の倒壊被害は限定的でした(津波による被害は除く)。
このように、現在の耐震設計においては、単に耐震基準をクリアすることだけでなく、大きなカインによるしなりや変形をどう制御するかという、制震・免震の視点を含めた対策が重要視されるようになっています。
したがって、企業が建物の耐震安全性を念頭に置いた上で、物件を選定したり対策を講じたりする際には、新耐震基準の遵守はもとより、ガル・カインの双方を考慮した設計や建物の固有周期についても精査することが求められます。
過去の巨大地震での観測例
過去に日本で発生した大地震において、観測された数値データと発生した被害の実態は、以下の通りです。
阪神・淡路大震災
1995年に発生した阪神・淡路大震災(兵庫県南部地震)では、神戸海洋気象台で最大加速度818ガルが観測されました。この地震では、最大震度7が記録されたほか、1秒以下の短周期地震動により、住家の全壊は約10万5,000棟、半壊は約14万4,000棟に上るなど、多くの木造住宅やビルが倒壊する甚大な被害をもたらしました。
東日本大震災
2011年の東日本大震災(東北地方太平洋沖地震)では、宮城県栗原市築館で最大震度7が観測され、K-NET築館観測点では2,933ガルという極めて高い最大加速度(3成分合成値※)が記録されました。
しかし、この地震動は周期0.5秒以下の短周期成分が主体であったため、加速度の大きさと比較して、木造家屋の倒壊といった構造的な被害率は阪神・淡路大震災に比べて低かったと報告されています。一方で、広範囲での液状化や巨大津波による壊滅的な被害が発生しました。
能登半島地震
2024年1月1日に発生した能登半島地震では、石川県志賀町と輪島市で最大震度7を観測しました。志賀町にあるK-NET富来観測点では、最大加速度2,828ガル(3成分合成値※)を記録しています。
この地震では、古い木造住宅を中心に多数の倒壊被害が発生しました。また、広範囲で断水や停電が発生し、復旧が長期化したことも特徴です。
※:加速度波形における南北・東西・上下3成分の各最大加速度を合成した値
企業の地震対策における活用法
カインやガルは企業が実効性のある地震対策を講じる上でも重要な指標となります。カインは主に建物全体(倒壊や変形)、ガルは建物内部(家具や什器の転倒)の被害につながりやすいことに留意し、対策を進めることが有効です。
図2:カイン値、ガル値による企業への影響
以下は、防災対策の具体的な取り組み例です。
- 建物・設備の耐震性確認
- 自社ビルや工場、あるいは入居するテナントビルの耐震性能を確認します。特に1981年以前の旧耐震基準で建てられた建物や、社宅として利用する中古マンションなどは、耐震診断を行い、必要に応じて耐震補強(制震・免震化など)を検討します。耐震設計においては、想定される地震動の速度(カイン)や加速度(ガル)に耐え得るかどうかを検証します。
- 家具・什器の転倒・移動防止
- オフィス内のキャビネットやサーバーラック、OA機器などは、大きな加速度(ガル)による転倒や、長周期地震動によって大きく移動するリスクがあります。L字金具やボルトゲルなどを用いて床や壁に固定することが有効です。
大きな地震が発生すると、十分な対策を行っていてもなお、想定外の事態が起きることが想定されます。自社拠点で被害が発生した状況下でも事業を継続・早期復旧させるためのBCPを策定し、カインやガルの値を踏まえた対策を反映することが求められます。過去の熊本地震や能登半島地震のような被害を考慮し、自社拠点の建物設計を改めて確認するほか、被害に耐え得る代替拠点の検討などを盛り込みます。
地震はいつ発生するか予測が困難な自然災害です。数値に基づく科学的な知見を活かし、ハード(建物・設備)とソフト(計画・訓練)の両面から備えを進めることが、企業・事業の存続と従業員の命を守ることにつながります。