不利益扱いに刑事罰の導入を提言、「公益通報者保護制度検討会報告書」を公表 消費者庁
掲載:2025年01月21日
リスクマネジメント速報
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消費者庁は2024年12月、公益通報者保護制度検討会(以下、検討会)報告書を発表しました。
2020年に公益通報者保護法が改正されて以降も、内部通報制度の実効性などにおいてさまざまな課題があります。また、国際的にも、公益通報者の保護の強化は一層求められています。有識者から構成されている検討会は、2024年5月から9回にわたり、見直すべき事項などについて議論してきました。今回発表された報告書は、主に次の3つの論点を中心に、それらの議論をふまえた提言がまとまっています。
1つ目の論点は「事業者における体制整備の徹底と実効性の向上」です。まず、検討会は、従事者指定義務(内部からの公益通報を受け付け、調査し、その是正に必要な措置に従事する「従事者」を定める義務)に違反した事業者に対して、消費者庁の行政措置権限を強化すべきとしています。また、公益通報者保護制度の認知度と実効性を向上させるため、事業者が周知を徹底する必要があるほか、消費者庁も、地方自治体と連携するなどして事業者に一層周知すべきと提言しています。体制整備義務(内部からの公益通報に適切に対応するために必要な体制を整備する義務)については現在、常時使用する労働者数が300人以下の事業者は「努力義務」となっていますが、これらの事業者にも窓口設置の重要性などについて一層の周知を行ったうえで、今後は体制整備義務の対象となる範囲の拡大なども引き続き検討すべきとしました。
2つ目の論点は「公益通報を阻害する要因への対処」です。検討会は、正当な理由がなく公益通報者を探索する行為や、公益通報を妨害する行為については、法律で禁止規定を設けるべきとしました(探索行為や妨害行為に罰則を設けるかどうかは、今後必要に応じて検討すべきとしています)。公益通報をする際、証拠となる資料を集めて持ち出す行為については、通報を躊躇することにつながらないよう、条件つきで免責規定を設けるべきとの意見があり、窃盗罪や個人情報保護法違反などとの均衡もふまえて慎重に検討すべきとしています。また、通報行為に刑事免責を規定してはどうかという意見もあったものの、現状はその点を考えるために必要な立法事実の蓄積が十分でないことから、今後も引き続き検討すべきとしました。さらに、公益通報者保護制度を健全に運用するために、濫用的通報(通報内容が虚偽だと知りながら行う通報や、すでに是正・解決した事案と知りながら自己利益のために行う通報など)については、消費者庁が実態を調査し、罰則設定の対応について検討すべきとしました。
3つ目の論点は、「公益通報を理由とする不利益な取り扱いの抑止・救済」です。公益通報を理由に通報者を不利益に取り扱うことは法で禁止されているものの、実際の事案として見られることなどから、違反した事業者及び個人に対する刑事罰を規定すべきとしました。また、公益通報を理由に、通報者が事業者から解雇などの不利益な取り扱いを受けた場合、地位を回復させるためには、通報者が裁判で、その不利益な取り扱いが通報を理由としていることを立証することになりますが、通報者にとってはその負担が重いという課題があります。この点をふまえて検討会は、主要先進国ではこの立証責任を事業者側に転換する措置を導入している例があることを踏まえ、なおかつ国内の事情も鑑みつつ今後の対応を引き続き検討すべきとしています。さらに、不利益な取り扱いの例として法で示されているのは解雇、降格、減給、退職金の不支給に留まっているため、配置転換やハラスメントなども禁止される不利益な取り扱いに含まれうる点を法定指針で明記することを検討すべきとしました。