公益通報者保護制度とは?改正内容と企業実務への影響をわかりやすく整理
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
公益通報者保護制度は、企業の不正を早期に把握し、是正につなげるための重要な仕組みです。2025年改正では保護対象の拡大や不利益取扱いへの対策強化が盛り込まれました。制度の概要と改正のポイント、企業に求められる対応を解説します。
公益通報とは
公益通報とは、労働者や退職者、役員などが、勤務先や役務提供先の事業者による一定の法令違反行為について通報することです。通報先は、事業者内部、権限を有する行政機関、そのほか一定の事業者外部の3つが定められています。いずれかを選び通報できる仕組みですが、通報先ごとに保護要件が異なる点に留意が必要です(※1)。なお、不正の目的で行われた通報は公益通報には当たりません。
図1:公益通報者保護制度の全体像
公益通報保護法において、公益通報の対象となる法令違反「通報対象事実」として定められているのは、「特定の法律に違反する犯罪行為や過料の対象となる行為、または最終的に刑罰や犯罪につながる行為」と「同法に規定された行政処分に違反した行為および違反する原因となった行為」のことです。
この「特定の法律」とは、「国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律」である約500本が対象です。主な分野と対象となる法律の例は以下の通りです。
【表】「通報対象事実」に該当する法令違反の対象となる法律
| 分野 | 法律 |
|---|---|
| 個人の生命・身体の保護 | 刑法、食品衛生法、道路運送車両法、建築基準法など |
| 消費者の利益の擁護 | 金融商品取引法、食品表示法、特定商取引法など |
| 環境の保全 | 大気汚染防止法、廃棄物処理法など |
| 公正な競争の確保 | 独占禁止法、下請法、不正競争防止法など |
| その他 | 個人情報保護法、労働基準法など |
消費者庁「公益通報ハンドブック」を基にニュートン・コンサルティングが作成
企業不祥事は、内部の関係者による申告や相談をきっかけに明らかになることが少なくありません。公益通報制度は、通報者を適切に保護しながら、不正の早期発見と是正を促す仕組みとして位置付けられています。企業にとっては、法令違反の把握を外部公表や重大事故の発生前に行える可能性があるため、コンプライアンスやリスクマネジメントの観点からも重要な制度です。
(※1)消費者庁「公益通報ハンドブック」
公益通報者保護法の目的
公益通報者保護法は、公益通報をしたことを理由に、解雇や懲戒などの不利益な取扱いを受けないよう、公益通報者を保護することを目的とする法律です。通報者が保護されることで、違法行為の放置を防ぎ、国民生活の安全・安心と社会経済の健全な発展につなげる役割を果たします。
また、企業にとってこの法律は、単に通報者を守るためだけの制度ではありません。不正の兆候を早期に把握し、自社内で是正につなげるためのガバナンス機能としても重要です。内部通報制度が適切に機能していれば、問題が表面化する前に対応しやすくなり、重大なレピュテーションリスクや法的リスクの低減にもつながります。
2022年施行の改正で何が変わったのか
公益通報者保護法は2004年6月に成立し、2006年4月に施行されました。その後も事業者不祥事が続いたことを受け、2020年6月に改正法が成立し、2022年6月に施行されました。2022年施行の改正では、内部通報制度の整備、外部通報の保護要件の見直し、保護対象の拡大などが行われました。
事業者の体制整備義務
2022年施行の改正では、常時使用する労働者が300人を超える事業者に対し、内部公益通報に対応するために必要な体制整備が義務付けられました。300人以下の事業者については努力義務とされています。体制整備には、通報窓口の設置だけでなく、通報の受付、調査、是正措置の実施などが含まれます。
また、内部通報に対応する「従事者」を指定する義務も設けられました。従事者には、公益通報者を特定させる情報について守秘義務が課されており、これに違反した場合には罰則の対象となります。制度の信頼性を確保する上で、守秘義務の徹底は重要なポイントです。
行政機関・外部通報に関する保護要件の見直し
2022年施行の改正では、行政機関や事業者外部への通報が保護される要件についても見直しが行われました。行政機関への通報については、一定事項を記載した書面を提出する場合が追加され、保護要件が明確化されています。
さらに、外部通報についても、通報者を特定する情報が漏れる可能性が高い場合など、一定の要件の下で保護対象となる範囲が広がりました。これにより、内部通報が難しい事情がある場合にも、適切な通報先を選びやすくなりました。
保護対象の拡大
改正前は、主な保護対象は労働者でしたが、2022年施行の改正により、退職後1年以内の元労働者や役員も保護対象に加えられました。加えて、保護される通報対象事実の範囲も拡大され、過料対象行為なども対象に含まれるようになりました。
さらに、公益通報に伴う損害賠償責任の制限に関する規定も追加されました。これにより、通報者が不必要な法的リスクを恐れて通報をためらうことを抑制し、制度の利用促進につなげる狙いがあります。
内部通報制度の導入状況から見える現状
消費者庁の2023年度調査(※2)によると、内部通報制度を「導入している」と回答した割合は、従業者規模301人以上の事業者で91.5%、300人以下の事業者で46.9%でした。義務対象企業では導入が進んでいる一方で、中小規模の事業者ではなお導入余地が大きい状況です。
一方で、制度を導入している事業者でも、その実効性には課題があります。同調査では、年間受付件数について「0件」または「1~5件」とする回答が多く、制度が設けられていても十分に活用されていない可能性が示されています。また、従事者指定義務を知りながら担当者を指名していない事業者が一定数存在するなど、運用面の課題も見られます。
このことから、公益通報制度は「制度があること」だけでは不十分であり、利用者に周知され、安心して使われ、適切に対応される状態まで整備されて初めて機能するといえます。現在は、形式的な制度整備から、実効性を重視した運用へと重点が移っています。
(※2)消費者庁「令和5年度 民間事業者等における内部通報制度の実態調査報告書」
2025年改正で何が変わるのか
公益通報者保護法は、2025年6月に再び改正されました。2025年6月11日に令和7年法律第62号として公布され、施行日は2026年12月1日とされています。今回の改正は、内部通報制度の実効性向上と、公益通報者の救済強化を主な目的とするものです。
改正の柱は、事業者の体制整備の徹底と実効性向上、公益通報者の範囲拡大、公益通報を妨げる行為への対処、不利益取扱いの抑止と救済の強化の4点です。2022年施行改正で整えた制度を、より実務で機能する形へ進める内容だといえます。
体制整備の実効性向上
常時使用する労働者が300人を超える事業者に課されている体制整備義務について、実効性を高める措置が追加されました。従事者指定義務に違反した場合には、助言や指導、勧告に加え、勧告に従わない事業者への命令が可能となり、命令違反には刑事罰が設けられます。
また、報告徴収権限に加えて立入検査の権限も導入され、虚偽報告や検査拒否などに対する罰則も新設されます。さらに、労働者などに対して公益通報対応体制を周知することが義務内容として明示されました。これは、制度を作るだけでなく、制度が社内で認知され、実際に活用されることまでを求める改正だといえます。
公益通報者の範囲拡大
公益通報者の範囲に、事業者と業務委託関係にあるフリーランスと、その関係が終了して1年以内のフリーランスが追加されます。近年は、企業活動を支える人材の形態が多様化しており、法令違反の兆候を把握する主体が必ずしも雇用労働者に限られないためです。
この改正により、企業は自社従業員だけでなく、委託先や外部人材を含めて、どの範囲まで通報窓口の利用対象とするか、規程上どのように位置付けるかを改めて整理する必要があります。制度の対象範囲を現実の事業運営に合わせて見直すことが、今後の実務上の重要課題になります。
通報を妨げる行為への対処
事業者が労働者などに対し、正当な理由なく公益通報をしない旨の合意を求めることなど、公益通報を妨げる行為が禁止されます。このような合意や法律行為は無効とされます。
また、正当な理由なく公益通報者を特定することを目的とする行為も禁止されます。いわゆる「通報者探し」は、制度への信頼を損ない、通報抑制につながるおそれがあるためです。企業には、守秘義務の履行にとどまらず、通報者探索を行わない組織運営と調査手法の整備が求められます。
不利益取扱いの抑止と救済の強化
公益通報後1年以内に行われた解雇または懲戒について、公益通報を理由として行われたものと推定する規定が導入されます。これにより、通報者側の立証負担が軽減され、救済を受けやすくなることが期待されています。
さらに、公益通報を理由とした解雇や懲戒を行った者に対する直罰も新設されます。法人に対しては3,000万円以下の罰金が設けられており、企業にとっては抑止力の高い改正です。通報後の人事判断、懲戒手続、記録管理の透明性をこれまで以上に慎重に確保する必要があります。
企業に求められる対応
2025年改正を踏まえると、企業に求められるのは、内部通報制度を「整備済み」とすることではなく、「適切に機能する状態」にすることです。通報窓口の設置や従事者の指定、守秘義務の徹底といった基本対応に加え、通報後の調査、是正措置、人事対応まで含めた一連の運用を見直す必要があります。
規程・運用フローの見直し
まず必要なのは、社内規程や運用フローの見直しです。2025年改正では、フリーランスの保護対象追加、通報妨害の禁止、通報者探索の禁止など、規程へ明記すべき論点が増えています。現行規程のままでは、施行後の法要求に十分対応できない可能性があります。
また、通報受付後の調査手順、調査結果の共有範囲、是正措置の判断基準、人事部門との連携ルールもあわせて整理することが重要です。制度の不備は、通報者保護だけでなく、企業の説明責任や再発防止の観点でも問題になり得ます。
周知と担当者教育の強化
制度は、利用対象者に知られていなければ機能しません。そのため、通報窓口の存在、利用方法、守秘の仕組み、不利益取扱いの禁止などを、従業員や役員、必要に応じて委託先にも周知することが必要です。2025年改正では、この周知が体制整備義務の内容として明示されました。
併せて、通報を受ける担当者や関係部門への教育も欠かせません。通報者の秘密保持、ヒアリング方法、通報者探索に該当しない調査の進め方、不適切な人事対応の回避など、実務に即した理解が必要です。運用担当者の知識不足は、制度不信や二次被害を生む原因になりかねません。
通報後対応の管理体制整備
通報制度の信頼性は、受付時よりも、むしろ受付後の対応で決まります。調査の進め方が不透明であったり、通報後に本人へ不利益な取扱いが行われたりすれば、制度は形骸化します。そのため、通報後の調査記録、判断過程、是正措置の履歴、人事措置との関係を適切に管理する体制が必要です。
特に、通報後1年以内の解雇や懲戒については、2025年改正により「通報を理由としたもの」と推定される規定が導入されます。そのため、企業側には、当該人事措置に合理性があることを説明できるだけの記録管理と内部統制が一層求められます。
今後の実務上の留意点
公益通報者保護制度は、改正の度に、制度の存在そのものよりも運用の実効性が重視される方向へ進んでいます。今後は、通報を受けた後に、いかに適切に調査し、是正し、通報者を守るかが企業評価に直結しやすくなるでしょう。
また、公益通報制度は法令遵守のためだけの仕組みではなく、コンプライアンス、内部統制、ERM、コーポレートガバナンスと密接に関係します。ESGや人的資本経営への関心が高まる中で、内部からの声を適切に受け止める仕組みの有無や運用状況は、企業価値にも影響を与える要素になっています(※3)。
2026年12月1日の施行に向けては、規程改定、窓口運用の見直し、対象範囲の整理、担当者教育、経営層の理解促進を段階的に進めることが重要です。公益通報者保護制度を単なる法対応としてではなく、組織の自浄作用を高める仕組みとして位置付けることが、今後の実務対応の鍵になるでしょう。
(※3)消費者庁「民間事業者の内部通報対応-実態調査結果概要-(令和6年4月)」