日本貿易振興機構(JETRO)はこのほど、「2025年5月版 EU人権・環境デューディリジェンス法制化の最新概要-企業持続可能性デューディリジェンス指令および強制労働製品禁止規則-」を公表しました。
EUでは近年、人権・環境デューディリジェンスを法制化する動きが進んでいます。本レポートでは、日本企業にとっても影響が大きいとみられる「持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD)」と「強制労働製品禁止規則」を取り上げ、それぞれの概要や、企業に求められる対応などについて解説しています。
2024年7月25日に発効されたCSDDDは、一定規模以上のEU域内外企業に対して、人権・環境デューディリジェンスを義務付けるものです。具体的には、適用対象企業は人権および環境に関するリスク、負の影響を特定・評価し、対処するために適切な管理システムを構築する義務を負います。さらに、気候変動緩和のための移行計画を策定し、実施することも求められます。
本レポートは、CSDDDの義務要件が簡素化される可能性があることについても触れています。企業側で手続きや報告義務などの過度な負担が生じるといった懸念があることから、欧州委員会は2025年2月26日に、サステナビリティに関するデューディリジェンス実施や開示義務を大幅に簡素化する「オムニバス指令案」を公表。この指令案のうち、CSDDDの国内法化期限・適用開始時期を1年延期するオムニバス指令(「Stop-the-Clockオムニバス指令」)は2025年4月17日に施行済みです。適用要件や義務内容の緩和に関するオムニバス指令案については、EU理事会および欧州議会で内容を審議される予定であることから、本報告書では、今後の動向を引き続き注視する必要があるとしています。
「強制労働製品の域内流通禁止規則」は、2024年12月13日に施行され、2027年12月14日から適用が開始される予定です。この規制が適用されると、自社が直接EU市場で活動していなかったとしても、その製品が最終的にEU市場に流通されたり、EU域内から域外に輸出されたりする場合には取引先から情報提供や対応を求められます。強制労働製品の流通・輸出が認定された場合は、事業者に対して当該製品の流通・輸出禁止、回収、処分、置換などの措置命令が下されます。
本報告書は、2026年6月14日までに、欧州委員会が「強制労働製品の域内流通禁止規則」のガイドラインを公表する予定となっていることを紹介しています。また、そのことを念頭に置きつつ、企業は先行して準備を進めることも必要だとしています。準備や対策の例として、サプライチェーンでの原材料調達や生産、流通の過程を追跡・記録・管理するための仕組みを構築することや、リスク管理やデューディリジェンスを導入すること、社内における法令順守体制を見直すことなどが挙げられています。高リスクとされる製品や地域を予測するにあたっては、EUグローバル人権制度など既存の情報源が参考になると示しています。