内閣府は7月、「令和7年度 年次経済財政報告(経済財政政策担当大臣報告)―内外のリスクを乗り越え、賃上げを起点とした成長型経済の実現へ―」を公表しました。
本報告書によると、2024年は名目GDPが初めて600兆円超となりました。政府による価格転嫁の円滑化や賃上げ促進の後押しもあり、春季労使交渉における賃金についても、2024年には33年ぶりの高さとなる上昇率に。2025年は2024年をさらに上回る賃上げ率となりました。報告書はこうした動向について「近年にはない明るい動きが続いている」と好意的に評価しています。また、「消費者物価が上昇しているという点で、明らかにデフレの状況にはなく、経済学的に言えばインフレの状態にある」とも記しています。
しかし、デフレに後戻りする見込みがないとまでは言えないとしています。また、賃金・所得の伸びと比べると、個人消費の回復の力強さに欠けている点も課題であり、その背景には老後への不安など、将来の不確実性も関連しているとしています。さらには、米国の第二次トランプ政権による関税政策が、日本経済を直接的・間接的に下押しするリスクもあると指摘しています。
今後は「賃上げこそが成長戦略の要」との認識の下、①賃金を中心とした所得の増加が恒常的なものであると人々が認識できるようにすること②日本銀行の物価安定目標である2%を実現・維持し、賃金の伸びがこれを持続的に上回る状況が実現・定着すること③持続可能な社会保障制度を確立し、老後生活の不確実性をできるだけ解消すること、といった政策的観点が必要だと示しています。
大企業と中小企業との賃金差は縮小傾向にあるものの、中小企業の間で賃上げ状況に二極化の兆しがあることも指摘されています。そこで、中小・小規模事業者の賃上げを促進するため、適切な価格転嫁や生産性向上、経営基盤を強化する事業承継・M&Aを後押しするなどの対応も求められると記しています。
また、労働市場は過去30年で大きく変容しているものの、転職希望の高さに対して転職を通じた労働移動が進まないといったミスマッチが依然として存在していることを指摘。そこで、データを示しながら、長時間労働の是正や転職未経験者へのサポートが転職活動のハードルを下げる可能性がある点などを示しています。また、新たな傾向として、スポットワーク(スマートフォンアプリ上での求人を通して短時間・単発で働くというもの)のサービスが、隙間時間を有効活用したい労働者と人材を柔軟に確保したい企業とのメリットが合致していることで急成長中だとしています。
その他の論点も含めて、報告書の全文は内閣府のウェブサイトに掲載されています。