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カントリーリスク

掲載:2019年05月22日

執筆者:シニアコンサルタント 日下 茜

用語集

カントリーリスクとは、組織に関係する特定の国の環境変化が、組織にもたらしうる影響のことです。なお、「組織に関係する特定の国」とは、組織がビジネス上、強い関係性を持つ国のことであり、たとえば投資先企業や取引先企業、あるいは自社拠点などが所在する国がそれにあたります。また「環境変化」には、組織のオペレーションに影響をもたらしうるその国の変化全てを含みますが、より具体的には政治・経済・社会・法規制・自然・技術など様々な側面における変化を指します。例えば、政情不安や経済危機、関税報復措置、洪水や火山噴火などがこれに該当します。

         

カントリーリスクの重要性

組織がカントリーリスクを認識する意義は、2つあります。

1つは、組織が抱えるリスクの中で、カントリーリスクが大きなウェイトを占めるようになっているため、自組織のリスクマネジメントに直結することです。近年、欧米やアジア各国だけでなく、アフリカや南米などの新興国においても日本企業の進出地域が広がっています。進出地域が増えれば、事業環境が複雑化することは明らかです。事業環境が複雑化すれば不確実な事象への遭遇確率が高まることは容易に想像できます。言い換えれば、他人事だと思って見ていた地球の裏側の紛争が、気がつけば自社のサプライチェーンを寸断しているということがごくごく当たり前になるのです。

2つ目としては、その国がもたらすリスク群を1つのかたまりとして認識することがリスクマネジメント上、効果的・効率的であることが挙げられます。カントリーリスクという概念を持たなければ、品質リスク(海外取引先工場が品質不良の製品を出荷するなど)、事業継続リスク(海外取引先工場が何らかの理由で生産停止になるなど)、粉飾リスク(海外子会社が粉飾決算を行うなど)等、別々の切り口でリスクを洗い出すことになります。そうした細かい切り口でリスクを検討することも必要ですが、「その国全体が持つリスク」をひとかたまりのリスクとして俯瞰的に捉えてしまったほうが、より現実的かつ有効な対策を検討しやすくなるのです。

カントリーリスクの事例と分類

カントリーリスクでは、具体的に以下のような事例が考えられます。

  • インフラ開発事業で進出した当該国において、クーデターが勃発し事業から撤退を余儀なくされた
  • 当該国が貿易取引決済のための外貨不足に陥り、公的対外債務の一時支払い停止を宣言、結果的に代金の回収ができなかった
  • 進出した当該国において、条例改定により、製品加工後の工業排水処理を決められた業者 を通じて行わなければならなくなり、汚水処理費の増額と追加設備投資によってコストが増加してしまった

このようにカントリーリスクには様々なものがありますが、下表のように政治、社会、経済、自然の4つに大別することができます。

 

大分類 小分類 詳細分類 主な出来事
政治 外交関係 国境問題 北アイルランド国境問題(2018年)
対外経済関係 貿易摩擦、資源問題 シオラレオネの紛争ダイヤモンド(1991~2002年)
対外評価 格付け機関による格下げ トルコの外貨建長期信用格付の格下げ(2018年)
内政 極端な政治体制の変化、独裁 ミャンマーの民主化
政情 反政府暴動、革命、クーデター、内線、戦争 チュニジアのジャスミン革命(2010年)、タイの軍事クーデター(2014年)
国有化 資産・土地などの国有化 フランスの電力公社の再国有化問題(2019年)
社会 治安 強盗、誘拐、反日感情の激化 中国の反日活動(2012年)
テロ 襲撃、爆弾 ベルギーの連続テロ事件(2016年)
環境 公害 中国の大気汚染(1990年~)
宗教・民族 宗教、文化上のタブー(禁忌) インドネシア味の素事件(2000年)
経済 国際収支悪化 財政赤字、外貨不足、国外送金制限、債務不履行 アルゼンチンの債務問題(2001年)、ギリシャの経済危機(2010年)
マクロ経済 景気後退、インフレの激化、失業率の大幅増加 ジンバブエのハイパーインフレ(2009年)
金融 銀行取付、株式市場暴落、為替相場不安定 中国の為替政策(人民元の切り下げ(2015年)
インフラ 輸送、電力、用水、通信などの整備の未実施 ブラジルの港湾インフラ不足(2015年)
経済法制度 会社法、競争法などの不備、不安定運用  
自然 広域災害 地震、津波、噴火、ハリケーン ハイチ地震(2010年)、タイの大洪水(2011年)
局所災害 台風、火災、洪水、地盤沈下 ロンドンの高層住宅火災(2017年)、ノートルダム大聖堂火災(2019年)

ニュートン・コンサルティング作成

カントリーリスクを認識するには

カントリーリスクは、その国のことをよく知っている人・組織を活用して認識する必要があります。なぜなら、前述のとおり、政治・社会・経済・自然といった様々な切り口で捉える必要があるからです。したがって、現地のことをよく理解している従業員の協力を得てリスクを洗い出すという方法もあれば、専門の調査会社や格付け機関が提供する情報を活用する方法もあります。

特に後者の方法については、調査会社や格付け機関が、具体的な数値や危険度をまとめており、独自のリストや指標で確認することができます。国際機関であるOECD(経済協力開発機構)では、国ごとの債務支払い状況、経済・金融情勢、対外返済実績等、政治状勢、将来の見通し等の情報に基づき各国のリスク分析を行っており、格付け表を発表しています。OECDのカントリーリスク評価では、リスクを0から7までの数字で表しており、各国のリスクレベルを一覧表で確認することができます。アジア太平洋地域を見ると、日本はシンガポールと並び最も低いリスク(0)に分類されており、カントリーリスクが低い国だと言えます。なお、所得の高い先進国は数字によるリスク評価自体がなされていません。

カントリーリスクの類義語

国際社会の複雑化により、カントリーリスクには様々な関連用語が生まれています。例えば、2000年代に入ってから盛んに耳にするようになったチャイナリスクやロシアリスクもカントリーリスクのひとつです。カントリーリスクの中でも、政治的・経済的・軍事的な側面で不確実性が大きくなり、両国のリスクが世の中で際立って目立ってきたことがこのような言葉を生む背景になったと言えるでしょう。

他にもカントリーリスクに関連する用語として、地政学的リスク(Geopolitical risk)が挙げられます。地政学的リスクは「特定の地理的空間を震源地として生じる変化が、国際政治・経済に及ぼす影響及びその要因」と定義されます。つまり、地政学的リスクはその名の通り地理的、政治的な側面から特定の地域においてのリスクで使われるため、本来はカントリーリスクに内包することができます。しかしながら、最近ではカントリーリスクと同義で使われる場面も増えてきています。

さらに、グローバルリスク(Global risk)という言葉があります。これは言わば「カントリーリスクの集合体」です。組織が、様々な国や地域に進出していたり、それらの国・地域の企業と取引を行っていたりするケースなどで、複数の国々の環境変化が組織にもたらす影響を総称してグローバルリスクと呼びます。

【参考文献】
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