世界経済が直面する不確実性と歴史的な転換期への対応を提言、令和7年版「通商白書」と「通商戦略2025」を公開 経産省
経済産業省はこのほど、令和7年版の「通商白書」と「通商戦略2025」を公開しました。「通商白書」は国際経済の動向や各国の政策が日本の通商に与える影響を分析し、それをもとに日本の通商政策の基本的な考え方や方向性を示す報告書です。「通商戦略2025」は産業構造審議会通商・貿易分科会での議論を経て取りまとめられたもので、白書にもその内容が盛り込まれています。日本が今後進めるべき通商政策について目標と方向性が示されています。
「通商白書」では、世界経済の不安定化要因として、2025年4月のトランプ米大統領による関税ショックと中国の景気低迷によるデフレ輸出の拡大・輸入停滞を挙げています。特に、関税ショックの背景にある米国の経常収支と財政収支からなる「双子の赤字」に注視すべきとし、通商政策の不確実性は著しく上昇したと分析しています。
その不確実性を高めている背景には、ルールベースの国際経済秩序が直面する中長期的な構造変化があるとして、以下の5つを挙げています。
- ①格差の拡大と社会的分断
- ②デジタル化が変えるサービス越境取引
- ③グリーン移行と貿易
- ④サプライチェーンの強靭化と重要鉱物
- ⑤産業政策と国際経済秩序
特に③については、気候変動などの地球環境課題を背景としたクリーンエネルギー需要の増加とクリーンエネルギー産業の拡大に焦点を当て、同産業とその関連材料の生産国として中国にサプライチェーンが集中していると指摘しました。このほかロシアによるウクライナ侵略など地政学的なリスクの高まりから世界各国は自国でのクリーンエネルギー産業を強化し、炭素中立を実現する製品を優遇する気候政策を加速させているとしています。
また、世界経済においてはASEAN諸国や韓国、インド、日本は、中国への輸入依存度が引き続き高く、輸入シェアの50%以上を依存する品目数が非常に多くなっているとデータを示して指摘しました。ASEANに関しては、中国からの製造業向け直接投資が拡大する一方、日本のシェアが低下したことに言及しています。
「通商戦略2025」では、新自由主義的な国際経済秩序は歴史的な転換期であるとして、保護主義化や経済ナショナリズムが進展するなか、日本は時代の要請を踏まえた対応と、国際経済秩序の再構築に取り組む重要性を訴えています。
対外経済戦略の目標には「DXやGXなどの世界の課題解決を通じて世界における日本の付加価値を最大化すること」と「不確実な世界においても信頼できる経済パートナーであり続ける」を掲げました。
戦略の柱としては、国際経済秩序の揺らぎへの対応のほか、保護主義が進む世界情勢の中で自律性や不可欠性を確保すること、そしてグローバルサウスの台頭などを考慮した輸出・海外投資で海外市場を開拓し、日本の付加価値を最大化していく取り組みが必要であると提言しています。