
皆さんこんにちは。お待たせしました。今回は2025年のリスク予測についてお届けします。世界経済フォーラムのグローバルリスクレポートをはじめ、多くの専門機関がリスク予測を発表しています。「それなら直接読めばいいのでは?」と思う方もいるかもしれません。
しかし、本稿の目的は「日本企業目線で見た場合に、結局、どのリスクを重視し、どのように対処すべきか?」を明確にすることにあります。
本稿を読むことで明らかになるポイントは以下です。
● 各専門機関のリスク予測の特徴とは?
● 各レポートで特に注目すべきポイントは?
● 日本企業にとって特に重要なリスクとは?
● 企業はこれらのリスクにどう対応すべきか?
各種リスクレポートの概要と特徴
本稿では特に4つの主要なリスク予測レポートを基に分析・評価を行います。なお、それぞれのレポートの概要や特徴については、次の図1をご参照ください。
各リスク予測の見どころを一挙に解説
リスク予測の定番!グローバルリスクレポート2025
世界経済フォーラム(WEF)が毎年発行する「グローバルリスクレポート」は、経済・環境・地政学・社会・技術など多岐にわたるグローバルリスクを分析し、政策決定者や企業リーダーが直面する課題とその影響を示すものです。
本レポートの特徴は、短期・中期・長期という複数の時間軸に加え、地域別、セクター別、ステークホルダー別など、様々な角度からリスクを分析している点にあります。
日本企業の視点で特に注目しておきたい情報は、以下の2点です。
- 「民間企業の短期(~2年内)リスク」(図2参照)
- 「日本の2025リスクトップ5」(図3参照)

図2. 民間企業の短期(~2年内)リスク

図3. 日本の2025リスクトップ5
なお、グローバルリスクレポート2025について、より詳しく知りたい方は、別のVOICE記事「Global Risks Report 2025(グローバルリスクレポート2025) を15分で読み解く」で詳しく解説しておりますので、そちらを参照ください。
地政学リスクの定番!ユーラシア・グループ Top Risks 2025
ユーラシア・グループが発行するレポートで、政治的リスクや地政学的動向を中心に、国際関係や経済への影響を分析し、企業や投資家にとっての主要なリスクを提示するものです。本レポートの 「トップ10リスクランキング」 は毎年高い精度を誇り、今回も注目に値する内容となっています。
2024年は、イスラエル・ハマスに関するリスクへの言及が多く見られましたが、2025年は、イランの弱体化やそれに伴う地域の不安定化に対する警戒が高まっています。 ロシア・ウクライナ戦争に関しては、トランプ大統領の再登場により終戦の可能性が示唆されているものの、短期間での解決は難しいと見られています。
こうしたことを反映してか、2025年のリスクランキングでは「ならず者国家ロシア」が昨年と同じ順位の5位にランクイン(図4参照)。その他の上位リスクの多くは、米国の動向と密接に関係している点が特徴的です。
特に、米国社会の不満がトランプ大統領の再選を後押ししたと考えられますが、そのトランプ政権は 「アメリカ・ファースト」 を掲げており、それが「トランプ支配」をはじめ、「Gゼロの勝利」「米中関係の悪化」「トランポノミクス」「世界経済の不均衡」「メキシコの混乱」といったリスクにつながっていると言えるでしょう。

図4. ユーラシア・グループの2025トップリスクと過去2年間の変遷
監査者目線のリスク予測!Risk in Focus 2025
The Institute of Internal Auditors(IIA)が発行する「Risk in Focus 2025」は、デジタルリスクや規制の変化を含む、内部監査に関連するリスクを評価し、企業のリスク管理や監査計画策定の指針を提供するものです。
本レポートでは、2025年および2025~2027年の組織の重要リスクトップ16が参考になります(図5参照)。これは、監査関係者が考える組織のリスクトップ5を集約したものであり、実務における優先課題を把握する上で有益です。
また、デジタルディスラプション(AIを含む)や気候変動が上昇トレンドにあることが明確に示されています。 これらのリスクは、今後の法規制変化が激しくなることが見込まれる領域でもあり、今後の監査業務やリスク管理の重点領域となる可能性が高いともいえます。企業は戦略的に対応を検討する必要があるでしょう。

図5. 組織の重要リスクトップ16
Risk in Focusが持つもう1つの魅力的な情報が「優先監査対象リスクトップ16」です(図6参照)。なお、同じリスク予測でも、前段で紹介した「重要リスクトップ16」と「優先監査対象リスクトップ16」では、リスクの選定基準に以下のような違いがあります。
分析種別 | 分析の視点 |
---|---|
重要リスクトップ16 | リスクの大きさ |
優先監査対象リスクトップ16 | リスクの大きさ リスクの測定・統制の可能性 リスクの規制要件の厳しさ |
この違いを象徴するのが「ガバナンス/企業報告」です。JSOX(日本版SOX法)やコーポレートガバナンス・コードなどの規制要件が厳しい領域ですから、企業に対して厳格なモニタリングが求められるため、「優先監査対象リスク」の上位にランクインしているといえます。

図6. 優先監査対象リスクトップ16
出典:What are the top 5 areas where internal audit spends the most time and effort? Global Audit Priorities – Region Comparisons – Region ComparisonsとWhat are the top 5 risks your organization faces? Global Risk Levels – Region Comparisons from Risk in Focus 2025 を基に筆者が編集
経済リスク予測の定番!EIU Global outlook 2025
「EIU Global outlook」は、Economist Intelligence Unit(EIU)が発行するリスク予測レポートです。本レポートでは、政治、経済、金融、オペレーショナルリスクなどの分野における世界的なリスクを分析し、企業や政府が直面する課題を評価しています。
2025年は特に、新たな米国大統領の影響、地政学的リスク、金融市場の動向に焦点を当て、その影響に対する評価が中心となっています。
特に、トランプ大統領の政策は、貿易政策、金融政策、エネルギー政策、外交・安全保障政策、移民政策、為替・通貨政策など多岐に渡ります。その中でも、日本企業にとって特に大きな影響を及ぼす可能性がある項目を以下にまとめました(図7参照)。ぜひ、参考にしてみてください。
日本企業にとっての重大リスクとは?
これら各種リスクレポートの情報を踏まえつつ、「日本企業」の視点で再整理してみると、いくつかの共通項が浮かび上がります(図8参照)。

図8. 日本企業が注目しておきたい2025年のリスク
まず、ユーラシア・グループの「Top Risks 2025」に示された10のリスクは、一見すると多様な可能性を示唆していますが、その多くは地政学リスクであり、日本企業への影響といった視点でみると、サプライチェーン寸断、法規制の変化、景気低迷リスクにまとめることができます。また、経済リスク予測に比重をおく「EIU Global outlook 2025」も同様の傾向を示しています。
地政学や地経学リスクは常に注目されていますが、従来から存在するリスクも依然として重要です。例えば、「グローバルリスクレポート2025」における 民間セクター目線のリスクや、日本の経営者が列挙するリスク、「Risk in Focus 2025」における優先監査対象リスクを見ると、以下のリスクが引き続き重要であることが分かります。
- 自然災害リスク
- ガバナンスリスク
- サイバーセキュリティリスク
- 内部不正リスク
特に自然災害 に関しては、2025年1月に 南海トラフ地震の発生確率が「70~80%程度」から「80%程度」に引き上げられました。また、富士山は現在「噴火スタンバイ状態」にあると指摘されており、桜島のマグマも2020年代に満杯になるとの懸念が示されています(2025年2月時点)。これらのリスクは、日本企業の経営や事業継続計画(BCP)に大きな影響を及ぼす可能性があるため、今後も注視が必要です。
また、内部不正リスクについては、「2024年リスク予測の答え合わせ」の「3. 外的要員リスクは気になるが、改めて内的要員リスクにこそ目を向けよう」でも触れました。2024年も、毎月のように社会を騒がせる不正事案が発生していたことを考慮すると、2025年も同様の傾向が続くことは十分に想定されます。
企業はどう対応すべきか
いかがでしたでしょうか。世界中のニュースが日々飛び交い、多方面の専門家がさまざまな予測を発表しています。そのため、情報が膨大になり、「処理しきれない」「どこに注目すればよいかわからない」と感じることもあるでしょう。
しかし、本稿で整理したように、冷静に観察すれば、多くのリスクは従来から注視されているものに集約されることがわかります。これは、今までに検討・実施してきたリスク対策を、必ずしもゼロから抜本的に見直す必要があるわけではないということを意味します。
そのため、企業としては、こうした情報を社内で共有し一喜一憂するのではなく、「自分たちなりの目線」を持って冷静に分析し、必要なコントロールを着実に実行することが重要です。
最後になりますが、本稿ではできるだけ明瞭かつ簡潔にお伝えすることを心がけました。ゆえに、もっと細かくお伝えしたい内容などもあったのですが、それらはあえて省きました。より詳細な情報や、より深い考察が必要な場合は、ご相談いただければ、トレンドリスクに関する研修なども実施しております。不明点やご相談がございましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。
それでは、本年もどうぞよろしくお願いいたします。