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グローバルリスクレポート2024(The Global Risks Report 2024)を読み解く

掲載:2024年01月29日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

ニュートン・ボイス

グローバルリスクレポート2024(The Global Risks Report 2024)が今年1月10日に世界経済フォーラム(WEF)から公表されました。同レポートはWEFが例年1月に開催するダボス会議に合わせて発行されている著名なレポートであり、その年に気にすべき世界の重大リスクについて主として、短期(2年内のリスク)と長期(10年内のリスク)の視点から評価をしています。本稿では、このレポートを読み解き、レポートの活用方法や企業として取り組むべき事項などについて解説します。

         

グローバルリスクレポート2024とは

私は年初にコラム「2024年の重大リスクを考える」を執筆するにあたり、グローバルリスクレポート2024をインプットの一つとして活用しました。このレポートはその名の通り、その年に気にすべき世界の重大リスクについてデータや予測を掲載しているからです。特に、重大リスクについては2年内のリスクを見る短期的視点と、10年内のリスクを見る長期的視点の両方から評価していることが有益だと考えています。

【図1. 短期および長期リスクの相対的重大性】

出典:図2.1の「2年および10年間のリスクの相対的重大性(Global Risks Report 2024)」を元に筆者が翻訳・編集したもの

世界経済フォーラムの専門チームによる広範なリサーチを経て分析され作成されたレポートです。政治、経済、技術、環境、社会など様々な分野の専門家とそれら機関に携わる実務家など約1500人の意見が分析結果には反映されています。

グローバルリスクレポート2024が示す重大リスクとは

世界の短期・長期の10大リスクを前年と比較しました(図2参照)。

  • ※1. 2023レポートの順からの変化を示しています。括弧内の数字は前年度からどれくらい上がったのか下がったのかを示すものです
  • ※2. 2023レポートでは「インフレ」に似たものとして「生活費高騰」リスクが挙げられており、それは第1位でした
  • ※3. 2023レポートでは「地球システムの重大な変化」に似たものとして「気候変動適応の失敗」リスクが挙げられており、それは第2位でした
  • ※4. 2023レポートでは「AI技術の悪影響」に似たものとして「最先端技術の悪影響」リスクが挙げられており、それは第18位でした

【図2. Globak Risks Reportが示す短期・長期トップリスクと前年からの変化】

出典:Global Risks Report 2023およびGlobal Risks Report 2024に記載の短期・長期リスクの情報を元に筆者が翻訳

こうしてみますと昨今のAI技術の台頭が大きな影響を与えていることが見て取れます。ChatGPTなどの生成AIの登場を皮切りに、AI技術を駆使して、誰もがいとも簡単に「リアルなものと見紛う」情報や画像、動画を生成することができるようになりました。これが偽画像や偽情報を生み出す温床となり、世の中に混乱をもたらしはじめています。2023年5月には米ワシントンで爆発が起きたとする偽画像がX(旧ツイッター)で拡散され、株価下落を招く事態となりました。こうしたことを背景に短期リスクでは、「誤情報と偽情報」リスクが前年16位から大幅ランクアップの1位に、長期リスクでは前年11位から6ランクアップしての5位につけています。同じAIつながりで、「AI技術の悪影響」リスクが初登場ながら6位につけています。

また、すでに多くの国々で顕在化している「サイバー不安」や「国家間の武力紛争」も大幅な上昇を見せています。さらに、長期リスクにおいて、気候変動に関するリスクの増加ペースも加速している印象です。「異常気象」や「生物多様性喪失と生態系の崩壊」がいずれも少しずつ上昇しており、加えて「地球システムの重大な変化」が2位につけています。

これらの短期・長期トップリスクは世界経済の視点で取りまとめたものになりますが、では日本からの視点や経営者の目線ではどうでしょうか。これについても同レポートの巻末に掲載されている各国による「経営者意識調査(EOS)によるトップ5リスク」(※1)が 参考になります。日本の経営者意識調査によれば、図3に示すものがトップ5リスクです。世界経済視点での短期または長期トップリスクに入っていなかった「労働力不足」が2位にランクインしている点に注目です。当該リスクは、イギリスやドイツ、フランスをはじめ他の多くの国々の意識調査でもランクインしていますから、やはり企業経営者目線では外せないリスクの1つであると言えます。

※1 Appendix C: Executive Opinion Survey: National Risk Perceptions (Global Risks Report 2024)

図3.日本の経営者が考える2024年の5大短期リスク

【図3. 日本の経営者が考える2024年の5大短期リスク】

出典:Global Risks Report 2024の経営者意識調査(日本)の結果を元に筆者が翻訳

比較してわかる、重大リスクの傾向

グローバルリスクレポート2024をより理解するために、類似のリスクレポートと比較して共通点や相違点を探ります。比較対象として、世界中の内部監査責任者からの回答結果を元にランキングを出しているRisk in Focusを取り上げます。このレポートはグローバルリスクレポートと似た調査であるとは言え、厳密には、調査対象者も、調査対象期間(※2)も、対象とするリスクの視点(Risk in Focusは向こう3年のリスクを調べたもの)も、少しずつ異なるため完全な比較はできませんが、「傾向の比較」には意味があると考えます。

Risk in Focus 2024によれば、前年度から大きくランクアップした重大リスクは「デジタルの混乱」と「気候変動」リスクです(図4参照)。一方、グローバルリスクレポートの短期リスクでは「誤情報と偽情報」が大幅ランクアップしており、Risk in Focus 2024でいうところの「デジタルの混乱」が該当すると言えそうです。「気候変動」についてはグローバルリスクレポートでは元々、上位にあったものですが、内部監査目線・企業目線でも気にすべきリスクとして捉えられるようになってきたということなのでしょう。また、「人的資本」が3位にランクインしていますが、これについてはグローバルリスクレポートの経営者意識調査の結果からも読み取れます。

※2 Risk in Focus 2024は2023年2月15日から7月12日にかけて調査が行われました

※赤いハイライトは2023年から2024年にかけて大幅にランクアップしたもの

【図4. Risk in Focus 2024と2023の向こう3年間のトップリスク比較】

出典:Risk in focus 2024 (Internal Audit Foundation)

グローバルリスクレポート2024の活用方法

グローバルリスクレポート2024の情報はいずれも、企業のリスクマネジメント活動に有益なインプットとなります。色々な活用方法がありますが、ここではリスクが顕在化するのを予測するのに役立つような1つの見方を示しておきます。

同レポートには「2年および10年間のリスクの相対的重大性」というマップが掲載されています。横軸に「短期視点での重大性」をとり、縦軸に「長期視点での重大性」をとり、ここに短期リスクと長期リスクをプロットすることでその関係性を示した図です(図5参照)。例えば「異常気象」が短期視点での重大性で6段階中の5、長期視点での重大性で6段階中の6にプロットされていますが、これは短期的にも長期的にも重大なリスクであるという意味です。

【図5. 短期および長期リスクの相対的重大性】

出典:図2.1の「2年および10年間のリスクの相対的重大性(Global Risks Report 2024)」を元に筆者が翻訳・編集したもの

この図に掲載されるリスクのうち、主として先の「異常気象」のように右上にプロットされるリスクは、短期的にも長期的にも大きなリスクを意味することから、これらは不確実性を帯びた「リスク」というよりむしろ対応がMUSTの「経営課題」として捉え、企業としての対策を早期に検討し始めることが望ましいものであると評価できます。

また、左上にプロットされるリスクは、短期的には大きくないものの、中長期的に大きくなってくることが予想されるリスクですから、企業の中長期計画立案時に強く考慮することが望ましいリスクであるといえるでしょう。特に、より左側にプロットされるリスク(この図では「最先端技術の有害な結果」のみがこれに該当しますが)は、今後急激に大きくなっていく可能性を秘めたリスクという点で、エマージングリスク的な要素を持っています。要するに現時点ではデータや専門家が不足しており、今後どのように変わっていくか他のリスクに比べて不確実性が高いのです。すぐの対応は必要でないにしても、今後も継続的なリスク評価が必要になるでしょう(エマージングリスクマネジメントの詳細についてはこちらをご覧ください)。

終わりに

本稿をお読みくださった方は、企業のリスクマネジメント活動に何かしらのヒントを得るために読んでくださっている方が多いと思います。もちろん、みなさん自身がヒントを得ることも大事ですが、経営者をはじめ部門を率いるリーダー陣が、これらリスクが顕在化した場合に事業目標や計画に与える影響について定期的な議論を重ねることも重要だと思います。

参考文献
  • The Global Risks Report 2024 19th Edition、World Economic Forum
  • The Global Risks Report 2023 18th Edition、World Economic Forum
  • Risk in Focus 2024 、Internal Audit Foundation
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