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2024年の重大リスクを考える(Part2)

掲載:2024年01月15日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

ニュートン・ボイス

2024年の重大リスクを考えるにあたってまずは2023年を振り返り(Part1)、次に各方面の予測データなどを参考に全体を俯瞰して2024年のシナリオを概観しようという本連載。いよいよPart2では、2024年を占っていきましょう!

         

2024年 重大リスクの主要な情報源

2024年のトップリスクは何か。その検討を始める前に、皆様の参考にできそうないくつかの情報源についてこちらでもご紹介しておきます。

  • 海外の専門機関
    • Global Risks Report 2024、世界経済フォーラム(World Economic Forum) (2024.1)
    • Risk in Focus2024 、内部監査人協会( The institute of Internal Auditors、IIA)・内部監査財団 (2023.9)
    • Risk Outlook 2024 、The Economist Intelligence Unit(EIU) (2023.10)
    • Top Risks、Eurasia Group (2024.1)
  • 日本のビジネス雑誌
    • 2024大予測、週刊東洋経済 (2023/12/23・30新春合併特大号)
    • 世界経済総予測2024、週刊エコノミスト (2023/12/26・2024/1/2 合併号)
    • 総予測2024、週刊ダイヤモンド (2023/12/23・30新年合併特大号)
    • 徹底予測2024、日経ビジネス 臨時増刊(2023/12/22)
    • 2024-2030大予測、日経トレンディ (2024.1)

最も著名なリスクレポートがGlobal Risks Reportです。Global Risks Reportは、毎年1月に開催されるダボス会議と連動する形で、世界経済フォーラムが発行しているものです。複数年先を見据えたリスク予測がなされているため、1年が経過した今でも参考にすることができます 。以下はGlobal Risks Report2024が示す0~2年後や~10年後のリスクです。特に赤くハイライトされているリスクは中長期的に上昇が予想されるものであり、要注意リスクだと言えます。

【図1. Global Risks Report2024が予測する2024年~2034年の重大リスク】
出典:筆者が「Global Risks Report 2024」の「重大リスク」を基に編集

次にご紹介するのがIIAのリスクレポート、Risk in Focusです。企業のリスクを熟知した世界中の内部監査人に行った調査結果に基づいた報告書であることから、参考にする価値が十分にあります。以下は、内部監査責任者たちが考える向こう3年間に企業が直面するであろう重大リスクトップ10です。順位こそ異なりますが、Global Risks Reportが指し示す0~2年後のリスクと大きな差異は無い印象です。直近のリスクという点では、もはや「不確実性が高いリスク」というよりも「確実性が高いリスク」と言えるのでしょう。

1 サイバーセキュリティ     67%(※1)
2 デジタルの混乱 55%
3 人的資本 46%
4 事業継続 41%
5 気候変動 39%
6 規制の変更 39%
7 地政学的不確実性 34%
8 市場の変動 33%
9 サプライチェーンとアウトソーシング 25%
10 財務流動性 23%
11 組織文化 21%
12 ガバナンス/企業報告 20%
13 詐欺 20%
14 コミュニケーション/評判 15%
15 健康と安全 11%
16 合併と買収 11%

【表1. 内部監査責任者が考える向こう3年間の重大リスクトップ5】
出典:Expected risk change in 3 years Risk in Focus 2024 IIAを元に筆者が翻訳・編集
※1 パーセントの数字は4000人超の回答者のうちトップ5に入るリスクとして選んだ回答者の割合を示します

3つ目にご紹介するのがRisk outlook2024です。こちらには、経済情勢に強いエコノミストインテリジェンスが考える「世界経済に影響を与える10のリスクシナリオ」が掲載されています。中国の台湾併合や、AIを使った選挙妨害、ウクライナ・ロシア戦争など、メディアで幾度となく取り上げられてきたリスクシナリオがずらっと並んでいる印象です。気候変動に関してグリーンテクノロジーも論点の1つではありますが、その中でも「補助金競争」という側面に着目している点は興味深いと言えるでしょう。

1 金融政策の引き締めが2024年に深く及ぶことで世界的な不況と金融の不安定化をもたらす
2 グリーンテクノロジーの補助金競争が世界的な貿易戦争に発展する
3 気候変動による異常気象が世界的なサプライチェーンを崩壊させる
4 産業行動の拡大が世界的な生産性を妨げる
5 中国が台湾併合を図り、突如としてグローバルな脱却を強いる
6 米国政権の変更が外交政策の急激な変更を引き起こし、同盟に負担をかける
7 中国の刺激策の失敗が国家統制の増大と成長見通しの減少を引き起こす
8 イスラエル・ハマス戦争が地域紛争に発展する
9 AIが選挙を混乱させ、政治機関への信頼を損ねる
10 ウクライナ・ロシア戦争が世界的な紛争に発展する

【表2. 世界経済に影響を与える10のリスクシナリオ】
出典:Risk outlook2024 Economist Intelligenceを元に筆者が翻訳・編集

最後に紹介するのが毎年1月に発表されるEurasiaGroupのTop Risks 2024です。地政学リスクに焦点を当てながら、各地域の専門家の知見や分析結果などに基づいてまとめられているものです。地政学リスクの震源として米国、中東、ウクライナ、中国、ロシア、北朝鮮などをあげています。そして、エコノミストインテリジェンス同様に、2021年に始まった世界インフレの動向について強い懸念を示しています。

1 米国の敵は米国(米国内の政治的分裂とその影響)
2 瀬戸際に立つ中東(中東地域の政治的不安定性)
3 ウクライナ分割(ウクライナの領土問題とその影響)
4 AIのガバナンス欠如(人工知能技術の管理と規制の不足)
5 ならず者国家の枢軸(国際的な不安定要因となる国家群)
6 回復しない中国(中国経済の停滞とその影響)
7 重要鉱物の争奪戦(重要な鉱物資源へのアクセスと競争)
8 インフレによる経済的逆風(世界的なインフレとその経済的影響)
9 エルニーニョ再来(気候変動によるエルニーニョ現象の再発とその影響)
10 分断化が進む米国でビジネス展開する企業のリスク(米国内の社会的・政治的分裂がビジネスに与えるリスク)

【表3.2024年10大リスク】
出典:Eurasia Groupの「Top Risks 2024」(2024.1)を元に筆者が各リスクの趣旨を括弧書きで追記

2024年の重要なイベント

2024年もさまざまな環境変化が想定されます。一消費者としては、2024年7月に20年ぶりに行われる紙幣の刷新が気になります。また、同時期にパリで開催される夏季オリンピックも気になりますね。ただ、企業目線になりますと、着目点は変わってきますね。

その観点でまず着目したいのは2024年は選挙イヤーであるという点です。地政学リスクに大きな影響をもたらす可能性のある台湾や韓国、ロシア、米国で選挙が行われる予定です。

ウクライナの選挙動向が特に気になるところですが、そのほかにも、フィンランド、インドネシア、インド、メキシコなど各国で選挙が行われます。ロシア・ウクライナ戦争が始まってから2年が経過し、戦争疲れという声も出始めている中で、各国のリーダーが信任を得られるかどうかで、今後の地政学リスクの占い方も変わってきます。とりわけ11月に行われる米国の大統領選は、トランプ前大統領が再選されるかどうかで米国のスタンスが大きく変わる可能性があると言われており、注目されるところです。

次に法規制の観点です。日本国内では2024年4月から、時間外労働の上限規制が物流業界や建設業界にも適用されることになります。労働者保護を狙いとした法改正ですが、こうした規制強化は、企業のコンプライアンスリスクや、人材不足リスク、価格競争リスクにつながるものと言えるでしょう。

また、2024年10月から施行される「短時間労働者の社会保険加入の適用範囲拡大」も重要な事柄です。具体的には、現在は従業員数101人以上の企業で働く短時間労働者が社会保険の加入対象となっていますが、2024年10月からこの要件を「従業員数51人以上の企業」に引き下げ、社会保険の適用範囲が拡大されます。

そのほか大きな影響はないものの、気にしておきたいものとして、改正金融商品取引法があります。4月1日からは四半期報告書制度が廃止され、四半期決算短信に一本化されます。また、施行は2026年からの予定ですが、2024年中に発効されるEU企業サステナビリティー・デューディリジェンス指令(CSDDD)も忘れたくありません。この新たな指令は、企業が自社の活動やその価値連鎖における人権や環境への影響を特定して是正を図り、予防、軽減、報告する義務を確立することを目指すものですが、最大で企業の売上高の5%に相当する罰金が科される可能性があります。

2024年の重大リスク

さて、こうした情報を踏まえつつ、2024年をどう見るべきか。私はあえて「リスク」という言葉を使った予測は避けたいと思います。なぜなら、リスクとは「目的に対する不確かさの影響(※2)」と定義され、言い換えれば「自組織が掲げる目的に影響を与えうるもの」がリスクだからです。そしてその目的は企業によって異なります。例えば、「気候変動に関するリスク」と言っても、気候変動によって物理的に拠点が被災し安定供給という目的が脅かされることを想定しているのか、人命が脅かされることを想定しているのか、はたまたグリーンテクノロジーの商戦に遅れをとることを想定しているのか、あるいはその全部なのかといったことは、企業が掲げる目的や戦略次第だと言えます。つまり、「重大リスク」が何であるかは、私のような部外者が決めることではなく、企業の皆さんが自組織にとって重要なもの(=目的)が何かを定義した上で皆さん自身が決めることなのです。

ただ「不確実性を伴うものが何であるか」はお伝えすることができます。それによってそれがあなたの組織にどう影響を与えるかはあなたの企業次第です。そこで「不確実性が高いものが何であるか」という視点と、仮に「こうした不確実性が企業が掲げる目的に影響を与えるとすればどんな目的に影響を与える可能性があるのか」という視点で、2024年を占ってみたいと思います(表4参照)

やはり不確実性の筆頭は地政学関連の事項ですね。ロシア・ウクライナ情勢について戦争が継続する蓋然性が高いとは言え、各国の選挙いかんによって、それがどう転ぶのか読めない部分があります。2021年2月のクーデターから約3年が経過し、ロシア・ウクライナやハマス・イスラエルに話題を持っていかれがちですが、ミャンマーの政情不安も不確実性の種です。2023年、反スパイ法の改正を行った中国が今後、さらに強硬な政策を取り続けるのかも気になります。

その中国の政策スタンスを占う意味でも、世界経済を占う意味でも、中国国内の不動産不況や、米国のインフレ動向も、大きなポイントです。新型コロナ対応のツケが回って来ているのではと言われるドイツやイタリアの財政危機も目を離せません。

※2. Guide73 - リスクマネジメント - 用語の1.1リスクにおける定義

エマージングリスク(新興リスク)が生まれやすい技術分野では、2024年もAI技術が台風の目です。ChatGTPに対抗する形でメタ社やApple社が追随の戦略を示し、Google社はGeminiをリリースしました。競争が激化するAI業界において、技術がどのように適用され、どのようなイノベーションが起こるのか、あるいはネガティブなイノベーション(技術の悪用)が起こるのか、不確実性がいっぱいです。気候変動やそれに伴うグリーンテクノロジーの分野でも様々な可能性や問題が勃発しそうな雰囲気です。

【表4:企業の一般的な経営目的と2024年にその目的に影響を与えうる不確実性/論点の関係性一覧】
出典:筆者作成

まとめ

当然ながら、不確実性が高いとされる事象は、企業戦略の決定やその実行に不安定さをもたらすもので、企業にとっての重要な論点、そして重要なリスクになりうるものだといって良いものです。こうした不確実性が企業が掲げる目的のいずれにどのような影響を与えるのか、それはどの程度なのか。ピンチにもなればチャンスにもなります。経営者や現場の人間の腕の見せどころです。

企業がなすべきは「こうした不確実性が他にあるのかないのか」「それがどういう形で経営目的に影響を与えうるのか(=どんなリスクとして捉えるべきか)」「どのリスクに優先的に経営資源を投下すべきか」「どうコントロールすべきか」といったことを自らの頭で考え、評価することです。

その一方で、リスクをゼロにすることは不可能ですから、万が一にも運悪くそのリスクが顕在化した時に困らないようにするためにレジリエンス(回復力)を高める活動にも力を入れることを忘れないようにしましょう。つまり、BCPや危機管理の活動を通じて、臨機応変の対応力を高めることが重要です。

2024年、適切なリスクマネジメントを駆使して、企業成長に弾みをつけていただければと思います。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

参考文献
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