「自律性」と「不可欠性」の確保へ、経済安全保障経営ガイドライン(第1版)案を公表 経産省
経済産業省は11月26日、経営者向けに経済安全保障上のリスク対応を経営戦略に組み込むための指針となる「経済安全保障経営ガイドライン(第1版)」案を公表し、意見公募を開始しました。米中対立の激化や「経済の武器化」など国際情勢が急変する中、企業に対しサプライチェーンの強靭化や技術流出防止などの取り組みを企業価値向上のための投資と捉えるよう促しています。意見の受け付けは12月26日まで。経済産業省は寄せられた意見を踏まえて2026年1月に正式版を公表する予定としています。
従来は国境をまたぐ効率重視の自由な経済活動の下、コスト競争力のある国での生産や在庫の最小化が追求されてきました。しかし地政学リスクの高まりや「経済の武器化」が進み、特定の国への過度な依存がサプライチェーンの脆弱性として顕在化し、従来の効率性一辺倒の戦略は見直しを迫られています。
そこで政府は他国への過度な依存を避ける戦略的な「自律性」と、国際社会にとって不可欠な特定分野を拡大する戦略的な「不可欠性」の確保を経済安全保障の柱に掲げています。この達成のためには民間企業の主体的な取り組みが必要だとして今般のガイドライン策定につながりました。
ガイドライン案では経営層向けに3つの原則を提示しています。第1に、自社のサプライチェーン上でどの国・地域の、どの企業と取引があるかを可視化し、紛争や経済制裁などの「外的ショック」が起きた際のリスクシナリオを具体的に想定することです。次に、経済安全保障への対応を「投資」と捉えることを挙げています。リスク対応を単なる法令遵守やコストとみなすのではなく、将来的な損失を防ぎ、持続的な経営を行うための「投資」へと認識を転換します。最後は、マルチステークホルダーとの対話です。取引先、株主、金融機関、政府などと平時から連携・対話を欠かさないことを求めました。
「自律性」の確保については、特定の国や企業への過度な依存を見直し、個社での対応が難しい場合は、同業他社との「共同調達」や「共同備蓄」も選択肢であると明記しました。他方、「不可欠性」の確保については、自社の競争力の源泉となる「コア技術」を特定し、流出防止対策を経営課題として扱うよう促しました。さらに共同研究先や委託先からの流出、買収や資本提携を通じた技術流出に警戒するよう具体例を挙げました。同業他社との対話も推奨しました。
ガイドラインではこれらの対策を実行するためのガバナンス構築についても言及しています。例えば有事の際に迅速な意思決定ができるよう、経営層が実務部門へ直接指示できる体制構築などが推奨されました。
一方、企業からは、同業他社と連携を進めるに当たっては、独占禁止法(カルテルなど)に抵触するのではないかとの懸念があります。そのため、公正取引委員会などはガイドライン案に先立って「経済安全保障と独占禁止法に関する事例集」を11月20日に公表、供給途絶リスクに備えた共同調達や情報交換、市場縮小分野での事業統合などについて一定の条件下であれば独占禁止法上問題にならないとの考え方を明記しました。企業が萎縮せずに経済安全保障対策を進められる環境を整備する狙いがあります。