【解説】干ばつとは?原因・種類・被害事例と企業に求められる対策
| 執筆者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
| 改訂者: | ニュートン・コンサルティング 編集部 |
干ばつは、農業・水資源・生態系などに深刻な影響を及ぼす気候リスクの一つです。本記事では、干ばつの定義や種類、気候変動や人為的要因による発生メカニズムを解説し、世界・日本における被害事例と企業が果たすべき役割や対策を紹介します。
1.干ばつとは
干ばつとは、長期間にわたって降水量が平均を下回り、水不足が続く状態を指します。農作物や水資源、社会経済活動などに対し、直接的・間接的に大きな被害をもたらします。干ばつは一時的な水不足とは異なり、長期化しやすいのが特徴です。例えば、チリのアリカで記録された1903年から1918年までの約14年間(172カ月)に及ぶ干ばつなど、極端に長期化したケースもありました。長期化により広範囲に被害が及ぶ懸念もあり、深刻な気候リスクとして認識されています。一方、他の自然災害に比べ、発生の兆候が緩やかに現れるため、降水量や気温、水資源の供給状況を監視することで、予測や事前の備えがしやすいという側面もあります。
干ばつの種類と特徴
干ばつは、発生メカニズムや影響が及ぶ事象によって3種類に分類されます。降水量不足により植物の生育などを阻害する「気象干ばつ」、土壌の水分量低下によって農業や畜産に被害を与える「土壌干ばつ」、「農業干ばつ」、湖や地下水などの水量が低下し生活・工業用水の供給不足につながる「水文干ばつ」で、これらは連鎖的に発生する傾向があります。
図1:干ばつの種類・特徴・リスク(気象・土壌・水文干ばつの違い)
これらの干ばつは農作物の収穫量減少や食品価格の高騰、さらには水力発電の停止によるエネルギー供給の不安など、社会全体に多角的な打撃を与えます。特に水文干ばつは工業用水やエネルギーの供給に影響を及ぼすため、企業活動にとっても大きな脅威になりかねません。
2.干ばつの発生原因とは?人間活動と気候変動への影響
干ばつの発生原因には、人間活動による「人為的要因」と自然現象による「自然的要因」の両面が複雑に関与しています。人為的要因は人間の社会経済活動によるもので、天然資源の採取や加工、温室効果ガスの排出、持続可能でない水や土地の利用などが挙げられます。他方、自然的要因にはエルニーニョ現象やラニーニャ現象、火山活動や太陽活動があります。これらが相互に作用することで被害が拡大する場合もあります。
図2:干ばつの発生原因(自然的要因と人為的要因の整理)
人為的要因:天然資源の大量消費と温室効果ガスの排出
人為的要因のうち最も大きなものは、温室効果ガスの排出に伴う地球温暖化です。WMO(世界気象機関)の発表によると、2024年は観測史上最も暑い年となり、世界全体の年平均気温は産業革命以前と比べて1.55℃上昇しました(※1)。気温の上昇は地表からの蒸発を促進し、土壌の乾燥を早めます。温暖化の背景にあるのが化石燃料などの天然資源の大量消費による大気中の二酸化炭素(CO2)濃度増加です。20世紀以降、大気中のCO2濃度は年々増加しており、2024年には世界平均で423.9ppmに達しました。これは工業化以前(1750年)の平均的な値と比較して52%の増加です(※2)。
このほか、不適切な土地利用や過剰な耕作・放牧などは生態系の劣化による土地の保水機能の低下を招き、干ばつの発生につながります。また、天然資源の過剰な採取によって水不足が発生し、干ばつが発生するケースもあります。こうした人為的要因の背景には、人間の社会経済活動による大量生産・大量消費が深く関わっています。
図3:【人為的要因】干ばつの発生メカニズム
(※1)環境省「国内外の最近の動向(報告)」
(※2)気象庁「大気中二酸化炭素濃度の経年変化」
自然的要因:一時的な気候変動をもたらす自然現象
自然的要因は一時的な気候変動をもたらす自然現象で、「内部要因」と「自然起源の駆動要因」に大別されます。内部要因は大気や海洋といった気象システム自体の性質が原因となるもので、エルニーニョ現象やラニーニャ現象、南方振動などが挙げられます。これらは地球の気候システムが本来持っている「自然のばらつき」であり、数年から数十年の周期で干ばつを発生させる要因となります。他方、自然起源の駆動要因は、気候を変化させる外部からの強制力(駆動要因)のうち、火山活動や太陽活動などの自然要因による変調です。近年の事例では、こうした自然的要因がもたらす一時的な気候変動が、人為的要因である温暖化に影響を及ぼし、より極端な干ばつへと変化する傾向があります。
図4:【自然的要因】干ばつの自然的発生要因と気候システムの構造図
3.世界と日本における干ばつの被害と課題
干ばつは世界経済に莫大な損失を与えています。WMOの推計によると、水資源の不安定化(ウォーター・インセキュリティ:Water Insecurity)が世界経済に与えるコストは年間5,000億ドルにのぼるとされています(※3)。干ばつの影響は一部地域のみならず世界全体に波及しており、日本も例外ではありません。
世界における干ばつの実態
世界各地での干ばつ被害は「過去最大級」の危機に直面しており、水セキュリティの観点からも深刻な問題になっています。
- 欧州:2022年、欧州委員会は「過去500年で最悪」の干ばつに見舞われたと発表しました。欧州の約47%が警告レベルにあり、農作物の収穫減少に加え、河川の低水位による船舶運航の停止や水力発電の低下など、多方面に影響が及びました(※4)。
- アメリカ:アメリカ中西部では、数十年にわたる広域的・長期的な乾燥状態が続いています(※5)。長期的な乾燥状態は山火事の被害を増幅するなどの懸念もあり、重大な脅威となっています。
- 中国:2022年の記録的猛暑により、長江の一部で川底が露出するほどの深刻な干ばつが発生し、電力供給や農業に多大な被害が生じました(※6)。
- 「アフリカの角」:ソマリア、エチオピア、ケニアを含むこの地域では、過去40年で最悪の干ばつが続いており、数千万人が深刻な飢餓と栄養不良に直面しています(※7)。
(※3)WMO「Drought」
(※4)EDO「Drought in Europe August 2022」
(※5)米国海洋大気庁「National Current Conditions」
(※6)WWA「High temperatures exacerbated by climate change made 2022 Northern Hemisphere droughts more likely」
(※7)WFP「アフリカの角を襲う干ばつで、1300万人が深刻な飢餓に直面」
日本における干ばつの実態
日本国内においても、過去に干ばつで被害を受けた事例が多くあります。近年の事例としては、2023年夏の渇水が挙げられます。2023年は梅雨明け以降、北・東日本を中心に記録的な高温が続き、高温・渇水によって農作物に大きな被害が出ました。また、1994年にはのべ42都道府県・1666万人が影響を受けた大渇水が発生しています。このときは生活用水の不足や農作物の被害に加え、半導体や鉄鋼メーカーが生産ラインの一部停止・操業短縮を余儀なくされるなど、企業活動にも影響が及びました。
さらに、日本における干ばつリスクは、国内での直接的な水不足だけでなく、食糧の海外依存度の高さからくる「外部からの打撃」にもあります。世界の主要穀物栽培面積の4分の3が過去に干ばつ被害を受けており、総生産被害額は約1,660億ドルにのぼるとの研究もあります。世界的な干ばつによる穀物価格の急騰や供給停止は、日本の食糧安全保障に直結する大きな課題です。また、今後数十年のうちに複数の地域で過去最大を超える干ばつの発生頻度が高まるとの予測もあり、一般生活者だけではなく企業のサプライチェーンのリスク管理としても無視できない事象となっています。
4.干ばつ対策として企業と社会が果たすべき役割
干ばつはもはや「遠い国の出来事」ではありません。日本においても、企業や社会が連携して取り組むべき課題といえます。干ばつの壊滅的な影響を軽減し、回復力(レジリエンス)を高めるためには、以下のような国際的な枠組みと足並みを揃えた組織的な対応が不可欠です。
- 国連砂漠化対処条約(UNCCD):深刻な干ばつや砂漠化に直面する国(特にアフリカ諸国)への支援を目的とした条約であり、日本も1998年から加盟しています。6月17日は「世界砂漠化・干ばつ対処の日」と定められ、普及啓発が進められています。
- パリ協定とNDC(国が決定する貢献):世界の平均気温上昇を抑えるための国際的な合意です。日本のNDCでは2035年度・2040年度までに温室効果ガス排出量を2013年度比でそれぞれ60%・73%削減するという目標を掲げています(※8)。
- COP29・COP30の動向:途上国向けの気候行動に対する資金の拡大や、適応策の進捗を測る指標の議論が進められています。
(※8)環境省「日本のNDC」
企業においては、干ばつを事業継続に対するリスクの一つとして捉え、対策に取り組むことが求められます。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。
- 脱炭素社会(ネット・ゼロ)への貢献:温室効果ガスの排出削減は干ばつの深刻化を食い止める根本的な対策です。GX(グリーントランスフォーメーション)ビジョンに基づき、再生可能エネルギーの活用や省エネ技術の導入を推進することが重要です。
- 資源循環(サーキュラーエコノミー)の促進:水資源の効率的な利用やリサイクルを推進し、水ストレスに対する耐性を強化します。
- 適応策の策定と実施:気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)などを活用し、自社の事業拠点やサプライチェーンにおける将来の干ばつリスクを特定し、リスクアセスメントを実施する必要があります。
- シナジーアプローチの展開:気候変動対策、生物多様性の保全、汚染対策を統合的に解決することで、持続可能な社会構築に貢献します。
こうした取り組みは、企業活動の持続可能性の確保やCSR活動にもつながります。地球規模の気候変動を自社の経営リスクとして捉え、公的機関が提供する科学的知見に基づいたレジリエンスの強化に取り組むことで、企業価値の向上を目指すことが可能です。