ウクライナとロシア戦争後の不確実な未来に備えるには
掲載:2022年03月01日
執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介
ニュートン・ボイス
この原稿を書いている今(3月1日 10:30)、ウクライナとロシアの戦争の真っ最中です。いろいろな意見が聞こえてきますが、企業人としては目先の事象に踊らされることなく、その先を読んだ行動をすることが重要でしょう。
「そんなこと言ったって、先がどうなるかなんて誰も読めないじゃないか」
そうおっしゃる方もいると思いますが、先が読めない、すなわち未来が不確実であるからこそ、リスクマネジメントの出番とも言えます。
シナリオ分析によるリスクマネジメント
この事態を前に、具体的にどうリスクマネジメントをするのか。こういう時に利用できる手法の1つがシナリオ分析です。シナリオ分析とは、不確実な未来に対して、起こりそうなシナリオをいくつか導出し、その際に自組織にどのような影響が出てくるのかを考えながら、その後の対応方法を考える分析手法です。ちなみに、ISO31010(リスクマネジメント-リスクアセスメント技法)という国際規格でも紹介されている手法です。
この分析手法は、わかりやすく言えば、例えばあなたが今週末に旅行に行くとして、「晴れなのか、雨なのか」「混んでいるのか、空いているのか」など、2軸の組み合わせでシナリオを考えてみるようなものです。晴れて混んでいるのがシナリオ①、晴れて混んでいないのがシナリオ②、雨が降って混んでいないのがシナリオ③、雨が降って混んでいるのがシナリオ④というように設定をし、それぞれにどのようなリスクがあるかを検討し対策を考えるのです。例えば、④のように雨が降っていて混んでいるのが最悪ですが、その場合はみんな屋内に入りたがるでしょうからレストランや屋内施設は行っても混雑していて入れない可能性があります。それに備えて、「あらかじめ予約できるところがないかを確認しておく」というのがリスク対応です。
ウクライナ侵攻におけるシナリオ分析
さて、話を戻して今回のウクライナ侵攻ですが、こちらも複数のシナリオを考えるにあたっては、まず「そもそもどんな不確定要素があるのか」を考える必要があります。不確定要素とは、先ほどの旅行の例における「晴れなのか、雨なのか」「混んでいるのか、空いているのか」といった軸のことです。戦争ではどちらが勝つのか負けるのか、ロシアは核を使うのか使わないのか、結果が出るまでにどれだけの時間がかかるのか、ロシアと関係性の深い中国やインド・イランはどのような態度を取るのか、世界各国のロシアに対する経済制裁はどれくらい続くのか、等々。
その中から、最も不確実性が高く、それでいて最も影響の大きい要素を選ぶとするなら、例えば、戦争の勝ち負けと、決着が出るまでにかかる時間でしょうか。そこで例えば、「ウクライナを制圧するのかしないのか」、「結果が出るまでにかかる時間は短いのか長いのか」の2軸で考えたとしましょう。
シナリオ①・・・ロシアが早々にウクライナを制圧する
シナリオ②・・・ロシアが時間をかけてなんとかウクライナを制圧する
シナリオ③・・・ロシアが早々にウクライナ侵攻を諦める
シナリオ④・・・戦争が長期化しロシアが疲弊して撤退を決める
シナリオ①の、ロシアが早々にウクライナを制圧した場合、ロシアはウクライナに全ての条件を飲ませるでしょうが、それが世界の反感を買い、経済制裁や世界の分断が長期化するでしょう。結果、ロシアからの天然ガスの輸入は困難になり、気候リスク対応の手段として原発への移行が進む可能性があります。またロシアのウクライナへの対応に触発され、中国の台湾に対する政策も強行的なものに変わってくるかもしれません。
逆に、シナリオ④の長い時間をかけて攻め続けたにも関わらず、ウクライナが陥落しなかったシナリオの場合、ロシアはただただ借金が膨らみ、経済破綻する可能性があります。ロシア大統領の権威が弱まり、下手をすれば政権交代が起きるかもしれません。その場合はむしろロシアに対する世界の経済制裁はいち早く解除され、世界の混乱が徐々に落ち着いていくかもしれません。
ロシアによるウクライナの制圧 | |||
---|---|---|---|
成功する | 失敗する | ||
決着が着くまでの時間 | 短い | シナリオ①ロシアが早々に制圧する
|
シナリオ③ロシアが早々に侵攻を諦める
|
長い | シナリオ②ロシアが時間をかけつつもなんとか制圧する
|
シナリオ④戦争が長期化、ロシアは疲弊し撤退
|
いずれにしましても、こうしたシナリオいかんで、天然ガスの値段、原発政策、中国の姿勢(米中・中台の緊張等)、各国の軍事費などさまざまな変数の値が変わってきます。そしてその変数のもと、皆さんの組織の業界や組織そのものがどのような影響を受ける可能性があるのか、そのために今からどんな手を打っておくべきなのかを考えることが必要になります。
大事なのは考えること
一点、誤解のないようにお伝えしておきますと、シナリオ分析によって未来の全てが予測できるわけではありません。外れることもあるでしょう。ですが、大事なのは考えることです。何か不測の事態が起きる度、色々と考えてみて、対応をしてみる。それによってそこから得られる気づきも多くなります。こうしたことが、会社全体としても、部門の中でもパッとできる組織こそが、これからの不確実な世の中を生き抜ける強い企業ではないかと思います。
最後になりますが、戦争の一刻も早い終結を強く願っています。そして今回の戦争で命を亡くした方のご冥福を心からお祈り申し上げます。
おすすめ記事
- 2022年の重大リスクを考える~さまざまな重大リスクレポート for 2022の特徴と活用方法~
- 2022年版「グローバルリスク報告書」を公表 世界経済フォーラム
- カントリーリスク
- 地政学的リスク~地政学の歴史的背景と2019年への展望~(前編)
- 地政学的リスク~地政学の歴史的背景と2019年への展望~(後編)
- ISO 31010(リスクマネジメント-リスクアセスメント技法)
- リスク対応(Risk Treatment)
- リスクアセスメント (RA: Risk Assessment)
- リスクシナリオ
- 電力需要が増加するとの想定を紹介、エネルギー白書2024を公表 経産省/資源エネルギー庁
- 重要物資の調達先や供給先は多様化を、令和6年版「通商白書」を公開 経産省