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BCP有効性向上のヒントを見出す~ピンチに直面してチャンスを見つけた事例から~

掲載:2021年10月11日

執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介

ニュートン・ボイス

サプライチェーンリスクが叫ばれる昨今、BCP(事業継続計画)や危機管理の重要性はますます高まっていますね。
今回は、BCPの有効性を向上させるヒントについて、ピンチをチャンスに変えた企業の事例を交えてお話しします。

         

BCPにおける「代替案」の難しさ

BCPに取り組むといっても、取り組みさえすれば問題が全て思うように解決するわけではないということもまた事実です。典型的なのはメーカーです。例えば、次のような命題に直面したときにどうするべきでしょうか?

「基幹工場が地震等で被災し、製造装置が壊れてしまった場合にどうやって事業継続をするのか」

BCPの一般的なセオリーで行けば「代替手段を考えよう」となり、「では、複数の製造装置を持っておこう」とか、「別の工場でも代替生産ができるようにしておこう」とか、「もう1つ新たな工場を作ろう」となるのかもしれません。しかし、実際は製造装置は高価で複数持つというのはなかなか難しい。しかも複数持っているからといって、同時に壊れないとは限らない。実際、私が以前お手伝いしたメーカーでは、「冗長化を意識して多めに保有していた3つの製造装置いずれもが地震で壊れてしまった」というケースがあります。代替工場をもう1つ持つという戦略もより一層コストがかかる話で、必ずしも現実的ではない。「別の工場で代替生産ができるようにしよう」という戦略にしても、精密機械など品質管理の厳しい製品では、製造ラインの設置の仕方1つとっても発注元の承認が都度必要になったりして、「昨日までA製品を作っていたラインでB製品を作るからよろしく」と簡単にパッと切り替えることはできません。

かくして、「代替生産は難しいので、いかに素早く復旧するか?」という「復旧戦略」に力点が置かれます。具体的には、人をどうやって集めて倒れた装置をもとの位置に戻すか、どうやって被害現場の掃除をするか、修理業者の応援をどれだけ迅速に獲得するか、などです。ただ、やはり事業は中断します。2021年3月にルネサスエレクトロニクスの子会社工場で17台の装置損傷を起こした火災では、多数の利害関係者に迷惑をかけることになるため、多くの応援を得ることに成功しましたが、それでも3~4ヶ月かかりました(これでも相当早い方です)。誤解の無いようにあらかじめ申し上げますが、かといって私が魔法のような解決策を知っているわけではありません。あくまでも事実を申し上げているだけです。

事例紹介:ピンチの中での発見

要するに、BCPに取り組むといっても「容易に代替案が見つからない」という壁が立ちはだかるわけです。そんな中、最近たまたま目にした情報で「あ、これは興味深い」と思えることがありましたので共有したいと思います。

①ソニー:半導体工場の東日本大震災における事例

「東日本大震災の影響で資材が日本で逼迫しているのなら、今まで純度の問題で使用不可とされていた韓国製資材を見直すことになりました。すると半導体産業で韓国は日本を超えており、スペック上の問題は無いことがわかりました。一部資材は供給先の選択肢を広げる結果となり、タブーは伝説だったと震災が教えてくれたのです」(斎藤 端『ソニー半導体の奇跡ーお荷物集団の逆転劇』より)

②ダイキン工業:コロナ禍に伴う半導体需給逼迫における対応

「半導体は空調の機種ごとに仕様が異なりますが、複数機種で特定の半導体を使い回せるかを社内で調べさせたところ、代替品でも対応できることがわかりました。世界の当社の生産拠点にある半導体を、必要な地域に一気に供給する対応も取りました。おかげで(コロナ禍でも)『弾切れ』を起こさなかった」(『日経ビジネス』2021/09/20号「編集長インタビュー ダイキン工業 十河社長兼CEO」より)

 

片方は東日本大震災、もう片方はコロナ禍・・・両組織に共通して言えるのは、ピンチに直面したということ。そして「それは無理だ。あり得ない」と思い込んでいたものが、危機に直面して、ソリューションを改めて真剣に考えざるを得なくなって「実は無理だと思っていたことは無理じゃなかった」という発見に至ったということです。

「本当に無理なのか?」という疑問の重要性

ここからの学びは何でしょうか。危機はピンチですが、その危機が生み出す切迫感こそが新たなチャンスを生み出すこともあるのだな、という点が1つ。加えて、こうも考えられないでしょうか。BCPに取り組んでいる際に、短絡的に「代替策なんて無い。無理だな」と結論づけていることが、「本当は無理ではないかもしれない」と。

「本当に無理なのか?」という疑問を持ち常識を疑うこと。BCP、とりわけサプライチェーンリスクを考えるとき、そうした意識を持つことも重要な要素ではないのかなと思うのです。そして、「本当に無理なのか?」ということについては、1回だけどこかで考えればいいというものでもない。なぜなら、状況は刻一刻と変化するからです。先のソニーの事例にしても、「以前は駄目だったものが、いつの間にか駄目じゃなくなっていた」ということでした。PDCAを繰り返し回す。そして、常識を疑う。今後のサプライチェーンリスクマネジメントとしても、BCPとしても、大事なことだと思います。

余談ですが、ダイキン工業はサプライチェーンリスク対応の一環で、2025年度までに空調機器で脱レアアースを目指すそうです。危機を乗り越えたことは、より一層、同社の取り組みを強くしているようにも映ります。

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