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計画運休対策で企業を強くする

掲載:2020年09月25日

コラム

計画運休とは、鉄道等の公共交通機関が、台風等の悪天候で運行への影響が予測される場合に、事前に予告した上で運行を取りやめることを言います。

国内で計画運休を初めて大規模に実施したのは、2014年10月の台風19号が接近したときのJR西日本でした。その後の相次ぐ台風被害により、2018年以降首都圏でも実施されるようになりました。首都圏で計画運休が実施されたのは、2018年の台風24号、2019年の台風15号(令和元年房総半島台風)と台風19号(令和元年東日本台風)などです。ニュースでも計画運休が度々取り上げられるようになり、公共交通機関を止めることを社会が受け入れつつあります。一方で、計画運休により影響を受ける一般企業においては未だ多くの課題が残っているのが現状です。計画運休へ柔軟に対応すると、実は一般企業にもメリットがあります。では、一般企業は計画運休にどのように対応するべきでしょうか。また、メリットとはどのようなものでしょうか。

         

計画運休の目的

計画運休は乗客の安全と混乱を回避することが目的です。大型の台風が接近・上陸する場合、運休を実施しなければ雨や風の影響で列車が駅間で停車してしまう可能性や、それによって台風が過ぎるまで乗客が車内に閉じ込められる危険性があります。あるいは、突然の運転見合わせや遅延の発生が駅での混乱を招き、トラブルに発展しかねません。計画運休を実施することで、これらを防止できます。

さらに、早期帰宅の促進、不要不急の外出の抑制、イベントの休止や早期切り上げ等にも繋がり、社会全体の安全を確保する効果もあります。

試行錯誤を重ねた「計画運休」

計画運休は2014年の初実施から試行錯誤を重ねルール化が進められてきました。国土交通省は2019年7月、鉄道各社のこれまでの計画運休の実施を踏まえて、各社にタイムラインを作成することなどを求める指針を出しました(鉄道の計画運休に関する検討会議「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」)。

指針策定にいたるまでの計画運休における問題と対策について、過去の台風の事例に沿って具体的に確認します。

2014年台風第19号の例

まずは、一部交通機関のみが運休を実施することの是否が問われた事例です。

2014年台風19号の接近の際にJR西日本が行った計画運休では、10月12日13時過ぎに予告し、10月13日16時頃から運休を実施しました。しかし、この時私鉄の大部分はほとんどダイヤを乱すことなく運行を続けていたため、JRだけが運休することについて利用者からは賛否両論がありました。「動けるまで動いた方がいい」といった批判や、「実際に事故が起きたり、大勢の乗客が混乱に陥ったりしてからでは遅い」という肯定的なものです。

その後2018年台風21号の際には、JR西日本や私鉄が運休に踏み切り、被害を抑えることができました。結果、計画運休は乗客の安全を守るという点で効果的だと考えられるようになりました。

2018年台風第24号の例

次に、情報発信の課題の事例を取り上げます。

2018年台風24号では、JR東日本を含め首都圏の鉄道で計画運休が行われました。9月30日の正午過ぎに予告し、同日20時以降に運転を取りやめました。しかし、首都圏の在来線を全て運休にするという異例の措置にもかかわらず、実施の公表が当日正午になってしまい、利用者に不満を残す結果になりました。公共交通機関として運行の可否をぎりぎりまで検討することは重要ですが、発表が直前では計画運休に対応できず、帰宅できない乗客が発生してしまったのも事実でした。

2019年台風第15号(令和元年房総半島台風)の例

交通機関が運休するということは、必ずどこかの時点で活動を再開しなくてはなりませんが、再開時期についても課題があります。

2019年台風15号(令和元年房総半島台風)では、2018年台風24号の課題を受け、計画運休実施を台風上陸前日の9月8日夕方に発表しました。この時は台風直撃が深夜の予報だったため、始発から午前8時までを運休とする、という発表をしていました。そのかいもあって、9日の始発から始まった運休は2018年の台風24号時に比べてスムーズに実施することができたと言えます。ところが、台風被害が予想より大きかったことが原因で、運転再開予定として発表されていた9日8時頃には運行を開始できず、しかも再開時間が何度も繰り下げられ、再開を見込んで既に駅に到着していた乗客は長時間駅で待たされることとなりました。このケースでは、被害の大きさによって左右される運転再開時期の課題が見えてきました。

また、交通機関の停止により成田空港で約1万人が足止めされたことを受け、他機関との連携の必要性も浮き彫りとなりました。

「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」の改定

度重なる台風による被害と、その対応を求められる交通機関への指針として、2019年7月に国土交通省が「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」を策定していましたが、台風15号の被害の状況を受け、台風19号上陸直前に同取りまとめの改訂をおこないました。台風19号では、この改訂案に沿って対応をおこなったことから、比較的順調に対応ができたと言えます。改定箇所は大きく分けて「旅客ターミナル施設事業者等との連携」と「運転再開にあたっての安全確認と情報提供」になります。前者では、空港アクセス路線を有する鉄道事業者が旅客ターミナル施設事業者等と連携し、利用者等の誘導や情報提供を実施することを追記しています。後者は運転再開にあたり、支障状況の確認のための事前準備を強化、必要な輸送力の確保、そして運転再開に向けた具体的な進捗状況の情報提供について追記しています。

2019年台風19号(令和元年東日本台風)の例

2019年台風19号(令和元年東日本台風)では、空港等の他機関とも密に連携をとり、前広に情報発信を行うことで、順調に計画運休が実施されました。台風15号で課題となっていた運転再開についても、台風横断前の10月11日昼の時点でJR・私鉄共に「少なくとも13日正午ごろまで運休」と余裕を持った時刻を発表しました。結果的には地域の被害が大きかったことと、休日であったことから、運転再開は大きな論点にはなりませんでしたが、公共交通機関の対応が問題とならなかったという点で、大きく評価できる事例でしょう。

求められる出勤抑制

では、これで計画運休に関する課題はすべて解消されたのでしょうか。

「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」の最後の章には、次のように記載されています。

被害状況によっては運転再開に時間を要する場合があること、また運転再開後しばらくは列車本数が少なく輸送力が限られること等から、利用者の集中による駅での混乱等を回避する必要性が高いことから、上記の鉄道事業者の取り組みと合わせて、利用者側による輸送需要を抑制する取り組み(テレワーク、時差出勤など)も重要であることについて社会的理解の醸成に努める。

つまり、運転再開時の混乱が未解決の課題として残っていると指摘しています。運転再開および輸送力の完全復旧は、台風通過後の被害の状況や、その後の安全確認作業等に大きく依存するため、多くの場合は、その見込みを示すことが困難といえます。そんな中、移動を制限していた通勤者が一斉に駅に押し掛けると混乱が生じてしまうのです。

こうしたことから、一般企業側にも運休への積極的な対応が求められています。運休はもはや公共交通機関だけの問題ではなく、社会全体の課題であると言えるでしょう。

鉄道各社の情報提供タイムラインを参考にする

前出の取りまとめによると、一般企業の対応として求められるのは、テレワークや時差出勤などといった輸送需要を抑制する取り組みです。台風は前もって発生が分かる災害であるため、計画運休の情報が出る前から対応について検討し、従業員や顧客へ対応方針を伝えておくことが重要です。特に、イベント等ステークホルダーと関わりのある予定は事前に方針や対応を決め、発表する必要があります。
しかし、出社や外出の予定に対応しなければならない日に風水害の影響を受けないとは限りません。そのため、事前に社内でルールを定め、従業員が安心して対応できるようにする必要があります。台風時の出社・帰宅判断を検討する際は、国土交通省が発表した「計画運休・運転再開時における情報提供タイムラインのモデルケース」(以下、タイムライン)が参考になります(表1)。

表1 計画運休・運転再開時における情報提供タイムラインのモデルケース
気象状況 計画運休開始時刻から概ねの時間 掲載内容例
台風の進路予報円(暴風域)が当該路線沿線を通過する可能性があるとの予報を発表 例)48時間前 ①計画運休の可能性を情報提供
例)台風〇号の接近に伴い、沿線エリアで大雨や強風が予想されるため、●月●日(●)の●時頃から列車の運転を取り止める可能性があります。
台風の進路予報円(暴風域)が当該路線沿線を通過する可能性が高いとの予報を発表 例)24時間前 ②●月●日の運転計画(計画運休)の詳細な情報提供(随時更新)
例)台風〇号の接近に伴い、沿線エリアで大雨や強風が予想されるため、●月●日(●)の●時頃から列車の運転を取り止める予定です。

③当日の運転計画(計画運休)の詳細な情報提供(随時更新)
例)台風〇号の接近に伴い、沿線エリアで大雨や強風が予想され、規制値を長時間にわたり超過する恐れがあることなどから、●月●日(●)の●時頃から順次列車の運転を取り止め、概ね●時までには全ての列車の運転を取り止めます。
当該路線沿線に大雨・強風等の注意報発令
当該路線沿線に大雨・強風等の警報発令 計画運休実施 ④空港の状況の情報提供(随時更新)※空港アクセス路線を有する事業者

⑤明日以降の運転再開見込みについての情報提供(随時更新)
例)台風〇号による強い風雨のため設備の被害や線路・架線への飛来物等が予想されます。台風通過後、風雨が落ち着いた段階で、線路等の安全点検を係員が実施します。その結果、復旧に時間を要する倒木・土砂流出入等を確認した場合には、朝の通勤時間帯において、列車の運転が困難となる見込みです。次回のお知らせは、●時頃を予定しています。
当該路線沿線を台風が通過
当該路線沿線を台風が通過した後 例)24時間後 ⑥運転再開当日の運転計画の詳細な情報提供(随時更新)
例)本日(●月●日)は、安全の確認のとれた線区より順次運転再開を予定しております。本日の運転計画については、以下のとおりです。
国土交通省「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」を基にニュートン・コンサルティングが作成

 

タイムラインでは、計画運休の実施予定時刻より48時間前に実施の可能性を発表することになっています。このタイミングでは、計画運休への対応を的確に行うための情報収集を行うとよいでしょう。

また、運休実施予定の前日には振替輸送等の情報も更新される可能性があります。時刻の変更等、随時更新される情報は精度が高まっていきます。つまり、タイムラインに合わせ企業も対応や方針を見直し、臨機応変に動けるようにすることで、より良い対策を講じることができます。準備しておいた取るべき対応策に最新の計画運休の情報を付与することで、従業員やステークホルダーの安全を確保し、信頼を得ることにもつながります。

一方、運転再開予定時刻も想定しておく必要があります。タイムラインには記載されていませんが、台風19号(令和元年東日本台風)を前例として踏襲されれば、計画運休が実施される前に再開の予定も発表されます。ただ、この再開時刻通りに鉄道が動くとは限りません。「鉄道の計画運休の実施についての取りまとめ」によれば、

  • 全線にわたり、構造物等の状態や飛来物による支障状況等の確認
  • ある程度の列車本数の確保

これらが終了次第、本格的な運転再開となります。計画運休における運転再開は、被災状況によって復旧作業に時間がかかるケースもあり、事前に運転再開の予定時刻を決めるには不確定要素が大きいと言えます。

また、運転再開直後は人が駅に密集し、予定通り乗車できるとは限りません。長時間駅で待たされる可能性も高いため、事前に運転再開時の出退勤について検討しておく必要があります。

ここでは、情報を基にどう判断するかが重要になるでしょう。台風通過まではタイムラインを基準にルールを整備できますが、台風通過後の運転再開については不確定要素が大きいことを踏まえて対策を打つことが重要です。例えば、随時更新される公共交通機関からの情報を基に各自の行動を連絡することや、前日に再開予定時刻通りに運転できた場合と再開が大幅に遅れた場合の両パターンのシナリオを想定すること等が考えられます。

計画運休対応で一般企業が得るメリット

これらの対策は風水害にのみ適用されることではありません。風水害以外の災害も多い日本では、いつテレワークや時差出勤の対応を求められるか分かりません。実際、新型コロナウイルス感染症対策として、テレワーク、在宅勤務へ移行した企業も多くあります。風水害の計画運休における対応を考えることは、毎年起きる風水害の被害を抑えるだけではなく、その他の災害への対策の一つにもなると言えます。

計画運休に対応することによる一般企業のメリットは、次のように考えられます。

1.人命を守るルールを明確にできる

内閣府が発表した「令和元年台風第19号等に係る被害状況等について(令和2年4月10日9:00現在)」によると、死者104人、行方不明者3人、重傷者43人、軽傷者341人が確認されています。風水害や計画運休に合わせたルールを事前に決めておくことで、被害を抑えることができ、従業員の命を守ることにもつながります。

2.危機対応力が上がる

風水害は事前にある程度被災を想定することができ、比較的発生頻度の高い災害と言えます。しかし、台風の進路変更や建物の損壊等、想定外も起こり得ます。風水害といえども、ルールを決めるだけではなく、実行し、想定外の対応を迅速に行う必要があります。風水害に対応する力を養うことは、様々な危機への対応力を高めるための第一歩と考えられるでしょう。

3.働き方を変革できる

台風15号の課題として、駅に人が密集し入場制限がかかるといった運転再開時の混乱がありました。駅で何時間も過ごすことは生産的とは言えませんし、従業員の負荷も高いでしょう。風水害に限らず、鉄道の運転見合わせは頻繁に発生するため、想定外が発生しても効率よく働ける方法を検討する必要があります。この方法の代表例がテレワークや時差出勤です。事前に想定できる被害への対応としてだけでなく、多様な働き方の推進など、働き方の変革を検討する機会にもなり得ます。

このように計画運休に対応することで、様々な想定外の事態への対応力向上や、普段の働き方をより良い方向へ進めることができるきっかけとなります。計画運休への対策を打つことは、企業にとってもメリットがあると言えます。

おわりに

テレワークや時差出勤が求められる機会は、計画運休に限らず今後増えていくことが予想されます。その中で「なかなかテレワークができない」「出勤時間が決まっていて時差出勤ができない」等、出社を余儀なくされる場合も多いのではないでしょうか。株式会社パーソル総合研究所が発表した「第三回・新型コロナウイルス対策によるテレワークへの影響に関する緊急調査」(2020年5月29日-6月2日)によれば、新型コロナウイルス感染症対策の取り組み状況として、テレワーク実施者の割合は25.7%であり、4月10日-12日の緊急事態宣言後の調査によるテレワーク実施者(27.9%)と比較しても2.2ポイント減少しているとのことです。テレワーク実施率の課題は新型コロナウイルス感染症のみの課題として捉えるのではなく、今後も起き得る計画運休対策の課題としても捉える必要があります。

ただ、テレワークも時差出勤も手段に過ぎません。ご紹介したタイムラインを参考に、出勤が厳しくなるような非常事態が起こった時「どういった手段があるか」「どの程度まで臨機応変に動けるか」を一度検討してみてください。こうした検討内容が、企業を強くすることへと繋がっていくでしょう。

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