CCS(二酸化炭素回収・貯留)
掲載:2023年02月14日
執筆者:チーフコンサルタント 山本 真衣
用語集
CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage(二酸化炭素回収・貯留)」の略称であり、二酸化炭素(CO2)を回収して貯留するための技術の総称です。CCSは、二酸化炭素増加により危ぶまれている気候変動によるリスクまたは機会に対する有効な手立ての1つです。この技術を使うことで、日本国内だけでも約2,400億トンのCO2を回収・貯留できる可能性があるとされています。これは日本で現在排出しているCO2の200年分以上に相当します。世界中の国々がCO2の排出量削減に苦労している事実に鑑みれば、このような技術への期待の大きさを容易にご想像いただけるでしょう。
なぜ、CCSに注目が集まっているのか
CCSが注目されるようになった背景には、パリ協定が採択された2015年以降、世界的にカーボンニュートラルの実現が目指されていることがあります。パリ協定とは、2015年の国連気候変動枠組条約締結国会議(COP21)において196カ国によって採択された、地球温暖化対策の国際的な枠組みです。この協定には「世界的な平均気温上昇を産業革命前と比較して2℃未満、できれば1.5℃に抑える努力を追求すること」※1が定められています。そのため、各国はカーボンニュートラルの実現に向けた取り組みを進めており、大きな貢献を期待されているのがCCSなのです。
※1 UNFCCC “The Paris Agreement”
なお、カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因の一つである、二酸化炭素やメタンガスなどの温室効果ガスの排出量実質ゼロを実現する社会を指します。ここでいう「実質ゼロ」とは、排出された温室効果ガスを後から回収することで、最終的な排出量をゼロにすることです。人間活動において温室効果ガスを一切排出しないことは不可能であることから、こうした表現がされます。
CCSとはどのような仕組みなのか
CCSとは、二酸化炭素を「回収・貯留」する技術です。では、二酸化炭素はどのように回収され、どこに貯留されるのでしょうか。
主要なプロセスとしては、まず、二酸化炭素を含むガスを火力発電所や工場などから回収します。次に、回収したガスの中から二酸化炭素だけを分離し、その二酸化炭素を地下へ圧入します。適切な地層で適正な管理がなされれば、二酸化酸素は1000年にわたって貯留することができると言われています。※2こうして、大気中の二酸化炭素を削減し、二酸化炭素濃度の上昇を抑えることができるのです。
※2 IPCC 「二酸化炭素回収・貯留に関するIPCC特別報告書(日本語版)」p.28
ちなみに、CCSと並列して語られる技術に、DAC(Direct Air Capture)があります。DACは、CCSのように火力発電所や工場が排出した高濃度の二酸化炭素を回収するのではなく、大気中の二酸化炭素を直接回収する技術です。この回収にはアミン溶液などの二酸化炭素を吸着する化学物質が用いられます。大気中に低い濃度で含まれる常温常圧の二酸化炭素を回収するため、CCSと比較すると二酸化炭素を回収するコストパフォーマンスは下がります。
世界各国におけるCCS取り組み状況
国際エネルギー機関(IEA)の発表によると、2022年9月時点では全世界で約35カ所の大規模商用CCS施設が操業しています。この全世界のCCS施設による二酸化炭素の総回収能力は、おおよそ4500万トンに及びます。日本の温室効果ガスの年間総排出量は11億5000万トンのため、現状のCCSではその4%相当の量を回収できているということです。
現在は世界中で新たなCCS施設の建設プロジェクトが進行中です。IEAは、東南アジア、中国、北米、中東、東南アジアの合計30カ国が施設の建設を進めていることを明らかにしています。これらの施設が操業開始することで、更なる二酸化炭素の回収が見込まれています。
また、CCSの技術を活用した具体的な海外企業の取り組みとしてコカ・コーラHBC社(スイス)とクライムワークス社の共同開発の事例が挙げられます。スイスを拠点に二酸化炭素の回収事業を展開するクライムワークス社が大気中から回収した二酸化炭素を販売し、コカ・コーラHBC社はその二酸化炭素で炭酸水を生産・販売しているのです。
こうしたCCSから一歩進んだ、CCUS(二酸化炭素回収・有効利用・貯留)(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の技術についても、各国がしのぎを削って開発をしています。
日本におけるCCS取り組み事例
資源エネルギー庁は、「日本国内には約2,400億トンのCO2貯留ポテンシャルがある」という見解※3を示しています。しかし、CCS施設の建設には地質調査等が必要で、すぐに国内のポテンシャルを最大限に活用することはできません。そこで本格的な運用に先駆けて、2012年から北海道苫小牧市でCCSの大規模実証試験が行われてきました。この苫小牧でのCCS実証試験には発電事業者やエネルギー・資源関係企業らが出資しています。
※3 経済産業省「令和4年度経済産業省概算要求のPR資料一覧:エネルギー対策特別会計」『二酸化炭素貯留適地の調査事業』
苫小牧のCCS実証試験センターでは、2016年度から地中への二酸化炭素圧入が開始され、2019年11月に目標値である累計30万トンの二酸化炭素圧入が完了※4しました。現在は二酸化炭素の圧入は停止され、貯留状況のモニタリングが行われています。モニタリングでは、二酸化炭素が移動したりすることがないか確認しています。政府はこの実証試験で得られた結果に基づいて、苫小牧以外の拠点での実験の実施や商用化に向けた取り組みを検討※5していくことを発表しています。
※4 経済産業省「苫小牧におけるCCS大規模実証試験30万トン圧入時点報告書(「総括報告書」)」
※5 資源エネルギー庁「CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に」
また、現在の日本の法律は二酸化酸素を地中に埋めて管理することを想定していないため、経済産業省と環境省は法整備も進めていくことを明らかにしています。法整備にあたっては、貯留事業権利や義務の範囲が論点になることが想定されます。このように、日本国内のCCSの取り組みは政府が中心となって進めている状況です。
企業の気候リスク対応としてのCCS活用
企業が気候変動リスクを検討するにあたっては、TCFDに基づくシナリオ分析を行うことが一般的になりつつあります。シナリオ分析の最後に特定されるリスクや機会からは、どうやって使用電力を減らしていくのか、CO2排出量の多い原料を他のものに変えていくのか、水害などの物理被害から建物をどう守るかなど、一朝一夕では解決できない重い課題が多く抽出されます。言い換えれば、気候変動リスク対応は、その対応・対策に時間を要する活動であるということです。
その時間軸の中でみれば、CCSという技術は発展途上であるものの、有望な対策の1つと言えるでしょう。現在、CO2というと排出をいかに減らすかということに重きが置かれがちですが、それだけではカーボンニュートラルを実現するのは困難です。したがって気候変動リスク対応の一手段として、特にCO2排出量の大きい企業では、こうした技術を取り入れることが求められます。CCSの専門研究機関とパートナーシップを組むなどすることも1つの手でしょう。
もちろん、一企業が自社のみで取り組むには費用も時間もかかるため、同じ業界内で連携して研究開発を進めたり、苫小牧の実証試験の事例のように、出資をしたりしてプロジェクトを支援するという方法もあります。また、こうした技術の採用が現実味を帯びてくれば、先のコカ・コーラHBC社の例のように、採取したCO2を製品製造のために再利用するといった方法でリスクを機会に変えることも夢ではありません。
参考文献
- UNFCCC “The Paris Agreement” (最終閲覧:2023/01/19)
- IPCC 「二酸化炭素回収・貯留に関するIPCC特別報告書(日本語版)」p.28 (最終閲覧:2023/01/19)
- IEA “Carbon Capture, Utilization and Storage” (最終閲覧:2023/01/19)
- 環境省『2022年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量(確報値)について』 (最終閲覧:2023/01/19)
- 脱炭素ポータル「カーボンニュートラルとは」 (最終閲覧:2023/01/19)
- 経済産業省「令和4年度経済産業省概算要求のPR資料一覧:エネルギー対策特別会計」『二酸化炭素貯留適地の調査事業』 (最終閲覧:2023/01/19)
- 経済産業省「苫小牧におけるCCS大規模実証試験30万トン圧入時点報告書(「総括報告書」)」 (最終閲覧:2023/01/19)
- 資源エネルギー庁「CO2を回収して埋める「CCS」、実証試験を経て、いよいよ実現も間近に」 (最終閲覧:2023/01/19)
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