
日本では毎年、地震や台風、土砂災害など多くの災害が発生しています。
2024年1月に発生した能登半島地震では、多くの建物が全壊・半壊し、人々の生活に大きな影響を及ぼしました。また、損壊した家屋等の解体や撤去に伴って大量に発生した災害廃棄物の処理は、石川県内や近県だけで賄うのは難しく、東京都や横浜市、川崎市が連携して処理することを表明しています(東京都は2024年9月から受入処理を開始しました)。このように自然災害の発生後に生じる廃棄物の処理は、災害発生時の重要な課題の一つです。
災害廃棄物の処理に関しては、過去の経験から教訓を得ながら、国や地方公共団体、民間事業者が協力し、災害発生後の復興体制の強化が進められてきました。地理的条件により災害の発生が多い我が国では、今後も大型地震や気候変動による豪雨の発生が予想されています。
ここでは、災害発生後に問題となる「災害廃棄物」について、災害廃棄物の処理や市町村・都道府県等に求められる対応をご紹介します。
災害廃棄物とは
災害廃棄物とは、地震や津波、河川氾濫や土砂崩れ等の自然災害によって発生する廃棄物のことを指します。「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」では、廃棄物を「産業廃棄物」と「一般廃棄物」に区別しており、災害廃棄物は一般廃棄物に分類されます。なお、産業廃棄物は工場などの事業活動に伴って生じる法律が定めた20種類の廃棄物であり、一般廃棄物は主に家庭や企業から排出される産業廃棄物以外の廃棄物のことを指します。
災害時に発生する廃棄物は選別が難しいため、混合した状態で、以下の7つの種類に分けられます。
【災害廃棄物の種類】
種類 | 説明 |
---|---|
可燃系混合物 | 混合物のうち、可燃物(木質廃材、廃プラスチック、紙類、繊維等)が比較的多く含まれるもの。 |
不燃系混合物 | 混合物のうち、不燃物(がれき類、ガラス、陶磁器、煉瓦、瓦等)が比較的多く含まれるもの。 |
木質系混合物(柱材・角材) | 混合物のうち、木造建物(住居・倉庫等)の解体の際に発生又は津波により破損・流出した廃木材(柱・梁材等)、内装建材、不用家具等の木質廃材を主体とするもの。 |
コンクリート系混合物 | 混合物のうち、鉄筋コンクリート構造の建物・構造物等の解体、住宅の基礎やブロック塀の撤去の際に発生したコンクリート破片やコンクリート塊(鉄筋混じり)等を主体とするもの。 |
金属系混合物 | 混合物のうち、鉄骨構造の建物・構造物等の解体の際に発生した鉄骨や鉄筋、金属サッシ、シャッターのほか、機械類、家電製品(家電リサイクル品目を除く)等を主体とするもの。 |
土砂系混合物 | 混合物のうち、土砂崩れの土砂、津波及び洪水等により堆積した土砂・砂泥等を主体とするもの。なお、被災地域の特性に応じて、家屋、生活用品、処理困難物、化学物質及び有害物等が混入することにより、さまざまな組成や性状を示す。 |
津波堆積物 | 津波により海底から巻き上げられ、陸上に堆積した土砂・泥状物等のこと。津波堆積物の主成分は、海底や海岸の砂泥等であるが、東日本大震災では、処理困難物、化学物質及び有害物等を含め、さまざまな災害廃棄物が混入した土砂系混合物の状態にあった。 |
大規模地震における災害廃棄物量の予想
災害廃棄物の特徴の一つは、自然災害の種類によって生じる廃棄物の種類が異なることです。例えば、地震の場合は倒壊・解体した木造建物から発生する木質廃材(木質系混合物)が中心となり、土砂崩れや津波の場合は土砂や砂泥を主体とするもの(土砂系混合物)が中心になります。
被災地域ではこのような災害廃棄物が短期間に大量に発生することとなり、その処理が遅れると生活環境や公衆衛生が損なわれかねません。そのため、災害廃棄物は市区町村が主体となって処理する必要があります。
今後発生が予想されている南海トラフ巨大地震や首都直下地震における災害廃棄物の予想発生量は過去の災害と比較しても甚大です。例えば、2011年に発生した東日本大震災では災害廃棄物が約2千万トン発生したと言われていますが、南海トラフ巨大地震では最大で約16倍の3億2千万トン、首都直下地震でも最大5倍強の1億1千万トンの災害廃棄物が発生すると予測されています。
このような大量の災害廃棄物を処理するためには、事前の綿密な計画策定と必要に応じた見直しが必須であるといえます。
災害廃棄物に対する対策—災害廃棄物処理計画
災害廃棄物は市町村にその処理責任があると防災基本計画に定められています。これを受け環境省は「災害廃棄物対策指針」を示し、「地方公共団体が平時からの一般廃棄物処理システムも考慮しつつ、実際に災害廃棄物を適正かつ円滑・迅速に処理することができる災害廃棄物処理計画を策定・改定する」ことを求めています。
災害廃棄物処理計画(以下、処理計画)とは、災害廃棄物の処理を迅速かつ適切に行うための応急対策、復旧・復興対策などを記載したものです。
処理計画に含まれるべき内容としては、大きく分けて以下の3つがあります。
- 体制整備等の平時の備え
- 発災初動期における災害応急対応
- 災害復旧・復興等
また、災害廃棄物の処理主体は市区町村であり、都道府県はその支援と、関係機関・関係団体と連携した域内の処理全体の進捗管理に努めるため、災害廃棄物対策指針では都道府県と市区町村で定める計画の違いも説明しています。
市区町村が策定する計画は、自らが被災する場合を想定し、平時の体制整備や発生した災害廃棄物を処理するための応急対応や復旧・復興に必要な対応事項をまとめます。一方、都道府県が策定する計画では、被災した市区町村への支援を行うことを目的として、平時の準備や応急対応、復旧・復興に必要な事項を網羅する必要があります。
また、解体事業者や廃棄物処理業者等の民間事業者団体にも有事に自治体の要請を受けて処理を担う等重要な役割が求められています。地方公共団体は民間事業者団体と災害支援協定を締結するなど、災害時に協力が求められるステークホルダーとの連携があらかじめ必要となります。
災害廃棄物処理計画を策定・点検するにあたってのポイント
計画は、災害時に実際に活用され実効性のあるものである必要があります。環境省より策定・点検するにあたって記載しておくべき事項や計画の実効性を向上させるために重要な事項について確認ができる「災害廃棄物処理計画策定・点検ガイドライン(以下、ガイドライン)」が公開されています。
このガイドラインでは、災害発生後の対応を8つの区分、発生前の平時の備えを3つの区分に分けています。各チェック項目に対して具体的な点検事項や、過去の教訓としてグッドプラクティス・バッドプラクティスも記載されています。
以下の表では、計画への記載や点検すべき主な内容(区分)を初動対応及び平時の備えとしてまとめています。
【災害廃棄物の種類】
No. | 時期 | 区分 |
---|---|---|
1 | 初動対応 | 庁内体制の確立 |
2 | スケジュール検討 | |
3 | 発生量推計 | |
4 | 広報 | |
5 | 片付けごみ対応 | |
6 | 仮置場の確保・設置 | |
7 | 仮置場の管理・運営 | |
8 | 処理・処分 | |
9 | 平時の備え | 計画の点検・共有・改定 |
10 | 関係者との連携 | |
11 | 人材育成 |
現在は全ての都道府県と政令指定都市、またほとんどの中核市が処理計画を策定済みで、それより小規模な市町村においても策定率は8割弱にいたっています。しかし、あらゆる計画と名がつくものが一度策定したら終わりではないように、災害廃棄物処理計画も絶えず見直しをしていくことが必要です。有事の際に計画が実態と異なると、不要な混乱を招いたり、処理が遅延することで被災した人々の生活環境や公衆衛生を損なう可能性があります。環境変化に合わせた定期的な計画の見直しや災害廃棄物対策に関する教育訓練や人材育成にも努めることが期待されています。