トンガの海底火山噴火が起きた今だからこそ考えておきたいこと
掲載:2022年01月25日
執筆者:取締役副社長 兼 プリンシパルコンサルタント 勝俣 良介
ニュートン・ボイス
2022年も年明け早々から色々なことがありましたね。新型コロナ感染症(COVID-19)はオミクロン株がまだまだ広がる兆しを見せています。トンガ沖では海底火山噴火が起こり、太平洋沿岸の国々には一気に緊張が走りました。そして、先日は九州の大分県周辺でマグニチュード6.6の地震が起こり、「すわ、南海トラフ巨大地震の前兆か?」という声も一瞬湧き上がりました。気候変動リスクの高まりが叫ばれる中、私たちは異常気象、特に風水害に目が行きがちです。が、何が起こるかわかりませんので、全方位で緊張感を持っておきたいところです。
トンガの事態に学ぶ「自分たちに足りない点」
さて、そんな中、個人的にはトンガの海底火山噴火は特に気になります。なぜなら、日本にも噴火が懸念される山々があるからです。特に近年、富士山の噴火リスクが気になります。2021年3月には富士山が噴火した際に影響が出る地域を示したハザードマップの改定版が出されましたよね。従来よりも影響範囲が広く示されており、各企業は見直しに追われていたかと思います。
また、トンガに起きている事態を見ていて「自分達に足りないところがあるのでは?」と気付かされるかもしれません。例えば、トンガでは今回の被害で、支援物資や人的な救援が必要となっています。ところが、ご存知の通り、今はコロナ問題の真っ只中。特にトンガはこれまでのコロナ累計感染者はたった1人という、いわばゼロコロナを続けています。このため、どうやって感染症の蔓延を防ぎながら支援を受けるのかに腐心しています。海外各国は現地に入らない支援方法を模索しているようです。日本では令和3年版防災白書に「コロナ×災害」発生時の避難所設置の方法について言及していますが、おそらくその視点だけでは足りないことがありそうですね。今後も、トンガの動向を見ていきたいところです。
降灰がもたらすさまざまな被害
火山噴火が起きると、日本の各専門機関から公表されている被害予測等でも触れられていますように、降灰によってあらゆる活動に不都合が生じます。鉄道、道路、電力、通信、上下水道、建物、人への健康被害などその範囲はとても広いものです。鉄道は、微量の降灰で地上路線の運行が停止すると言われています。鉄道だけでなく空路も影響を受けますよね。2010年のアイスランドの火山噴火の際には多数の航空便が欠航しました。つまり、噴火は我々の移動手段を奪っていくのです。
電力もそうです。降灰と降雨(0.3cmほど)のダブルパンチで停電が発生します。通信も例外ではありません。基地局のアンテナへの灰の付着で通信が不安定な状態になります。上水道もそうです。いくら浄水設備があるとは言え、大量の灰が流れ込めば浄化能力を超え停止します。その他、重要な施設設備も被害を受けます。ビルやマンション、戸建住宅のエアコン室外機やその他室外設備に降灰すれば、不具合が生じます。さまざまな設備を稼働させる工場などはリスクだらけと言えるでしょう。「ITは問題ないでしょ」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、データセンターも屋上に電源や空調設備を設置しているケースが多く、降灰リスクと無縁ではありません。
噴火から派生する問題の怖さ
怖いのは、こうした影響を受け、水資源問題に派生することです。ダムや河川にも降灰しますし、先述の通り上水道にも影響が出ます。さらに各種設備の清掃に大量の水が使われます。もっと言えば、降灰の影響で設備が不具合を起こし火災も多発するかもしれません。その場合にも消火のための水が大量に必要になります。今回、トンガでは「雨水を貯めるタンク等に灰が入り不自由を強いられている」との報道が出始めています。浄化すれば問題ないようですが、限度がありますし、健康上の不安もありますから、ペットボトルの水に走っているようです。加えて、農作物に付着した灰を洗い流すためにも水が必要だとも報道されています。下手をすれば、我々が日頃気にしている巨大地震よりも、噴火による水不足に陥る可能性の方が高いかもしれません。
もう1つ、噴火関連で意外に見落としがちなのが、今回のトンガ噴火でも少し話題に上っていた、パラソル効果がもたらす異常気象リスクです。パラソル効果とは、噴出物が上空を覆い、地球上を漂うことで傘のように太陽エネルギーを遮ることを言います。これが地球全体の気温を下げ、結果、数年以内に冷夏等の異常気象をもたらすと言われています。これは単なる仮説ではなく、実際に、1991年のフィリピン・ピナトゥボ山の噴火の際にも起きたことです。そうなると、目先の水資源リスクや事業継続リスクだけでなく、事は食糧危機や物価高騰リスクにも及んでいきます。
「あの時もっとこうしておけば良かった」とならないように
私は別に皆さんを脅したいわけではなく、やはりこうした災害事例をきっかけに、真摯に学ぶべきだということを強調したいだけです。私がここで触れた内容の多くは、すでに各専門機関が詳細かつ正確に公表してくれています。そうしたものを改めて読んでみる。できれば、ただ読むだけでなく、1時間でも30分だけでも「今、富士噴火が発生したら、自分達の周りにどんな被害が出るか」を仲間とディスカッションしてみればいいのです。それをするだけで、「あれがまずいかも、これがまずいかも」という発見につながります。おっと、そうそう、もちろん、会社だけでなく家庭の水の備蓄は忘れないようにお願いしますね。一人一人が普段から備えをしておくことで、買い占めを(多少なりとも)和らげることにもつながりますし、もしかしたらそれが誰かの命を救うことにつながるかもしれません。
思い立ったが吉日です。「あの時もっとこうしておけば良かった」とならないように、今すぐに行動しましょう。
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