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災害対応型給油所

掲載:2013年01月16日

改訂:2024年12月03日

執筆者:執行役員 兼 プリンシパルコンサルタント 内海 良

用語集

災害対応型給油所は、災害時に電力や水道が停止した場合でも給油や給水ができるガソリンスタンド(サービスステーション、以下SS)のことです。

         

災害対応型給油所とは

通常SSは、消防法等の規定に基づき強固な造りとなっていますが、停電が生じた場合には、燃料の供給を行うことができません。災害対応型給油所には、以下のような設備・機器が設置され、停電や水道停止時にも給油や給水ができるよう整備されています。

  • 太陽光発電
  • 内燃機関発電設備
  • 貯水槽
  • 井戸設備
  • 緊急用可搬式ポンプ

阪神・淡路大震災の教訓から開始された取り組み

1995年の阪神・淡路大震災では、1週間以上の停電のため、給油所の機能が停止し、 緊急車両の燃料不足が消防活動や人命救助、災害復旧活動に影響を及ぼしました。また、被災者が暖を取るために自家用車を利用するケースも多く、災害時の石油製品の重要性が再認識されました。そこで翌年の1996年に、経済産業省が「災害対応型給油所普及事業」を実施しました。

給油は緊急車両が優先、地域住民には給水などの支援

災害対応型給油所には、「警察・消防等の緊急車両へ優先的に揮発油及び軽油の供給を行うこと」、「被災地の被災状況に関して、近隣の警察や消防等と密に連絡を取り、各種情報の発信地として機能するように努めること」などが義務づけられています。

被災直後は緊急車両への給油のみとなることが想定されますが、地域住民に対しては給水やトイレに関する支援をしたり、地域の方々の一時避難場所としても役立ちます。またSSによってはAEDや車いす対応トイレなどを設置している場合もあります。

大規模地震での課題と経験を踏まえて

東日本大震災では、サプライチェーンが寸断されたことにより、SS自体がガソリンを入手できない状況となりました。災害対応型給油所は「ガソリンはあるが、停電のため給油設備が動かない」場面を解決することを主眼に置いていたため、ガソリンがSSまで届かないという新たな課題が顕在化しました。

しかしながら、この石油が届かないという課題についてもさまざまな取り組みが行われています。

その一つが、2012年11月1日に施行された改正石油備蓄法です。震災直後には全国的な連携がとれず、ガソリンや灯油などが被災地に届かないなど、深刻な燃料不足が発生しました。その反省から改正されたもので、石油元売り各社に災害時の石油製品の供給計画を共同で作ることを義務づけ、輸送体制や情報網などをあらかじめ整備し、災害が起きても安定的な供給を維持するのが狙いです。

また、経済産業省が「中核SS・小口燃料配送拠点」の設置を推進しました。「中核SS」は、自家発電設備などを備え、災害時に可能な限り緊急車両への優先給油を行い、営業状況を政府に報告する役割を担っており、全国に約1,591か所(2024年3月末時点)が設置されています(店名や所在地は非公開)。「小口燃料配送拠点」は、自家発電設備やタンクローリー、地上・地下タンクを利用して、災害拠点病院や避難所などへ灯油・軽油の配送を行うことを目的としたもので、全国に467か所(2024年3月末時点)が設置されています。

2016年の熊本地震では、自家発電設備を備えたSSが震災による停電発生後も燃料供給を継続し、被災地の復興・復旧に貢献しました。災害時におけるSSの重要性が再認識されたことを機に、地域の人々にも安定した給油を行う「住民拠点SS」の整備が進められています。2024年5月31日時点で、全国約30,000か所のSSのうち、14,360か所が「住民拠点SS」となっています。

民間企業のBCPへの利用方法

前述のように、東日本大震災や熊本地震の教訓から石油供給についてさまざまな見直しが行われています。

初動対応の部分をマニュアル化するのであれば、帰宅困難者向けに災害時帰宅支援ステーションなどの情報に加え、災害対応型給油所の場所も事前に把握して記載しておくと良いでしょう。従業員にあらかじめ災害対応型給油所の役割を教えておくことで、帰宅困難に陥った際にも給水やトイレに困らなくて済むかもしれません。

普段から石油製品を燃料として利用している企業については、有事の際にいち早く供給状況を確認できるよう、災害対応型給油所の住所や連絡先をリストアップしておけば、早期事業再開の大きな一手となるはずです。