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インシデントコマンドシステム

掲載:2023年11月06日

用語集

「インシデントコマンドシステム」とは、災害や事件、事故などの現場対応における緊急時の組織マネジメントです。警察や消防、民間企業といった所属先や権限、スキルが異なる人員や資源を統合して運用する手法が示されています。「緊急時総合調整システム」「現場指揮システム」などとも呼ばれます。

         

ICSの歴史と特長

インシデントコマンドシステム(incident command system、以下ICS)は1970年代に米国の消防で開発されました。カリフォルニア州で大規模な森林火災が発生した際、複数の組織による消火や復旧活動が混乱したことが教訓となり、指揮系統や管理手法が標準化されたのがICSです。

さらに森林火災だけでなく、米同時多発テロ発生時などにも利用されるようになり、あらゆる災害や緊急事態に適用できるように発展しました。米国の大規模災害における危機管理を担う、アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁(FEMA)ではICSの普及や啓発を行っており、米国で発生するすべての災害や緊急事態に ICS を用いることを定めています。

現在では日本を含め世界中でその有効性が認知され、行政や医療、企業などさまざまな組織における危機管理に用いられています。また、災害のみならず、コンサートやスポーツイベントもICSに基づき実施されるようになっています。

対象となる危険因子の種類や規模、その原因を限定せず、「オールハザード」型であるのがICSの特長です。そのため、群衆雪崩やテロといった危険因子のあるイベントにも適用することができるのです。

危機対応組織の基本機能

ICSでは危機対応の活動を以下の5機能をもつ部門として捉え、一元的で包括的な組織マネジメントを可能にしています。

ICS の組織構造

指揮調整部(Command)

全体的な権限と責任を持ち、活動の方針を決めて組織を統括する。現場指揮官(Incident Commander)を広報スタッフ、安全監督スタッフ、渉外スタッフが補佐する。

実行部(Operations)

計画を実行し、目標を達成するための活動を行う。地区ごとに編成されたうえ業務内容でも班などに分けられる。

計画情報部(Planning)

情報を集めて分析や評価をし、現状を報告書にまとめたり、作業計画を立てる。また、技術者や専門家を交えて今後の課題を洗い出し、長期的な計画も作成する。

包括支援部(Logistics)

現場の危機対応に必要な後方支援を行う。通信を確保し、医療や食料、車両を供給し、活動拠点を管理する。

財務・総務部(Finance/Administration)

危機対応をするなかで発生する事務作業を処理する部門。レンタル機器などの契約交渉、人員や設備の稼働時間の把握、事故や怪我に対する請求と処理、費用の集計など。

指揮命令系統の確立

危機対応において、最初にすべきなのが現場指揮官を決定することです。災害時など、さまざまな情報が飛び交う混乱した状況ではいち早く、指揮命令系統を確立することが重要になるからです。

まず現場指揮官を決め、他の部門についてはインシデントの規模などに応じて臨機応変に編成します。現場指揮官1人で5機能を担えるほど小さな規模や内容であればすべての役割を兼ねればよく、場合によっては不要となる機能、部門もあります。

数秒の差が深刻な結果を招くこともあり、状況が急変するのも非常時です。コミュニケーションの混乱を避け、効率的な対応ができるように指揮は一元化し、誰から指示を受けて誰に伝えるかを明確にしておきます。また、人員が増減してもマネジメントに支障をきたさないように、1人が管理できる人数を5人(3~7人までは状況により可)とする監督限界を定め、統制できる範囲を超えた人員に対しては下部組織を設けるようにします。

ICSの原則

ICSには他にも、以下のような原則があります。これらを守ることにより、人員の安全を守りながらスピーディで効果的な活動が可能な組織となります。

  1. 一般的な用語を使う
  2. 規模や内容に応じた対応組織の設置
  3. 具体的で測定可能な目標による管理
  4. 緊急時行動計画の策定
  5. 監督限界を超えない管理
  6. サポート設備や場所の確保
  7. 適切な資源の管理
  8. 情報伝達のためのシステムと体制の構築
  9. 指揮権の確立と権限移譲のルール化
  10. 指揮命令系統の統一
  11. 複数組織による現場での統一された指揮
  12. 災害対応業務の適正化
  13. 適切な人員の配備と資機材の投入
  14. 正確な情報収集と分析、共有

気候変動に伴う災害や中東情勢の緊迫化など、想定外の緊急事態が頻発する不確実性の高い時代です。企業経営においても非常時の混乱や被害拡大を防ぐために、あらゆる危機に柔軟かつ迅速に対応できるICSのような備えが必要です。

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