
「二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism; JCM)」は、日本がパートナー国に対して優れた脱炭素技術やインフラ等の普及を促進し、パートナー国の温室効果ガスの排出削減・吸収や持続可能な発展に貢献するとともに、その貢献を定量的に評価し、日本が相当のクレジットを獲得する制度です。JCMはパリ協定(第6条2)に記された協力的アプローチに関するガイダンスに沿って実施され、両国が自国の排出削減目標(「国が決定する貢献(NDC)」※)の達成に活用することが目指されています。
日本は2011年からJCMに関する協議を開始し、2013年に初めてモンゴルと署名を行いました。2024年5月時点で29カ国とJCMを構築し、250件以上のプロジェクトを実施しています。
※国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution; NDC):パリ協定において全ての締約国に5年毎の提出・更新が義務付けられた温室効果ガスの排出削減目標
二国間クレジット制度(JCM)の実施に向けた取り組み
日本は2021年4月、米国主催気候サミットにて、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な目標として、2030年度に温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを表明しました。そして、2021年10月22日に地球温暖化対策推進本部で日本のNDCを決定し、国連気候変動枠組条約事務局に提出しました。
また、同じく2021年10月22日に閣議決定した地球温暖化対策計画では、JCMの構築・実施により「官民連携で2030年度までの累積で1億t-CO2程度の国際的な排出削減・吸収量を目指す」ことや「我が国として獲得したクレジットを我が国のNDC達成のために適切にカウントする」ことなど、目標と達成に向けた施策が示されています。
この計画に基づき、2022年1月にJCM実施担当省(環境省、経済産業省、外務省、農林水産省、国土交通省)にJCM推進・活用会議が設置され、同年4月開催の第2回JCM推進・活用会議では「二国間クレジット制度(JCM)に係るパリ協定に基づく締約国による承認の手続き」と「二国間クレジット制度(JCM)に係る相当調整の手続き」が策定されました。
さらに、2024年3月に閣議決定された「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改正する法律案」(一部を除き2025年4月1日から施行)には、JCMのクレジット発行、口座簿の管理等に関する主務大臣の手続等の規定や、これらの手続きの一部を実施できる指定法人制度の創設など、JCMの実施体制強化のための措置が盛り込まれています。
カーボン・クレジットの仕組みと種類
JCMなどの制度における「カーボン・クレジット」とは、一般に、温室効果ガス排出量の見通し(ベースライン)に対し実際の排出量が下回った場合、その差分をクレジット(証書)として認証し、取引できるようにしたものを指します。通常、1クレジットは1トンのCO2(またはCO2相当量のGHG)削減や除去を意味します。カーボン・クレジットの取引方法としては、削減量を取引する「ベースライン&クレジット方式」のほかに排出枠を取引する「キャップ&トレード方式」があり、後者は一部の公的機関により導入されています。
カーボン・クレジットを活用した取り組みには、JCM以外にもさまざまな種類があります。例えば、クリーン開発メカニズム(Clean Development Mechanism; CDM)は、京都議定書によって創設された、国連が主導する制度です。日本政府が主導する国内制度としては、経済産業省、環境省、農林水産省が運営するJ-クレジット制度があります。
こうした政府や公的機関が運用するカーボン・クレジットは「コンプライアンス・クレジット」と呼ばれ、また、民間セクターの主導で運営される制度は「ボランタリークレジット」と呼ばれます。、米国の非営利団体Verraが運営し、世界で広く活用されているVerified Carbon Standard(VCS)や、WWF等の国際的な環境NGOが設立したGold Standard(GS)などが挙げられます。
民間資金を中心とするJCMプロジェクトの促進
日本政府は、地球温暖化対策計画で掲げた目標を達成するためには、政府資金を活用したJCMプロジェクトだけでなく、民間資金を中心とするJCMプロジェクトの促進が重要であるとしています。
2022年4月には「民間によるJCM活用のための促進策のとりまとめに向けた提言」が公表され、2023年3月には「民間資金を中心とするJCMプロジェクトの組成ガイダンス」が策定されました。ガイダンスについては、JCMルールの見直しや民間JCMプロジェクトの組成状況等を踏まえ、2024年3月に改定されています。