国土交通省は4月23日、土砂災害防止対策推進検討会による「近年の土砂災害における課題等を踏まえた土砂災害防止対策のさらなる取組強化に向けて(提言)」を公表しました。
土砂災害防止対策推進検討会(以下、検討会)は有識者から構成されています。土砂災害防止基本指針に基づいて行われてきた取り組みを分析・評価し、今後必要となる施策などについて議論が行われてきました。
このたび公表された提言書は、検討会での議論をふまえて作成されたものです。「土砂災害警戒区域」「土砂災害警戒情報」「警戒避難体制」の3つのテーマに分かれており、それぞれの現状と今後必要な対策がまとまっています。
「土砂災害警戒区域」に関しては、2023年に発生した土砂災害を検証した結果によると、土砂災害防止法の対象(災害報告があったもののうち、道路や鉄道など、国土保全上の対策に係るものを除いた居住地に係るもの)となるものに係る災害は84.6%(総数1,351件)でした。この割合は、今後、高精度な地形情報を活用して基礎調査を行えば96.4%まで向上する見込みです。
検討会は、土砂災害警戒区域外の土砂災害リスクの注意喚起を行うのとともに、土砂災害警戒区域の確度向上に努めるべきとしています。また、国土交通省に対して、基礎調査結果の公表前の危険箇所の周知に関する事例を集めて都道府県に共有するべきとしています。
次に「土砂災害警戒情報」については、CL(都道府県における土砂災害警戒情報を発表する際の雨量の基準)の定期的な見直しが進められ、気象庁も降雨予測の精度向上に取り組んできたものの、依然として確度に改善の余地があると指摘しています。
そこで、引き続き確度の向上を図るべく、国土交通省は都道府県と連携し、改善に取り組む必要があるとしています。例えば、土砂災害発生時刻・位置などのできるだけ正確な情報を収集し、CLの更新を気象庁と連携して継続するよう働きかける必要があるとしています。また、CL決定手法に技術的な課題もあり、引き続き改良が必要であることも記載されています。
なお、個別の斜面単位での土砂災害の発生予測には、崩壊履歴や、立木の伐採による環境変化といった要素が影響します。そのため、現行の技術的手法のみでは精緻な予測は困難です。検討会は国土交通省に対して、個別の斜面の特性を踏まえた土砂災害予測手法についても技術的検討を推進するよう提言しています。
「警戒避難体制」については、まず、避難に関する考え方が周知されていないという課題が挙げられています。土砂災害の避難は立ち退きが原則ですが、すでに周辺の状況が危険になっている場合は、土砂災害警戒区域内で相対的にリスクの低い場所へ避難することになります。しかし、提言書によると、こうした避難行動の考え方が十分に浸透していない現状が指摘されています。また、「土砂災害警戒区域内において相対的にリスクが低い場所がどこであるのか」を判断するための情報が十分ではない点も指摘されています。
こうした状況をふまえ、検討会は国土交通省に対して、緊急時に住民自らが危機を回避できるよう、被害の実態や具体事例などを例示的に提示するなど、警戒区域内での相対的なリスクの違いの判断につながる情報をより一層提供すべきとしています。また、警戒区域内の相対的なリスクの評価手法は進歩・高度化しており、研究の推進も求めています。
また、RC構造物の被害実態に関する調査データが限られ、立ち退き避難を不要とする一般的な条件を明示するための科学的知見が十分ではないなどの課題もあります。そのため、検討会は、被害実態の調査・データ蓄積を図り、避難の考え方に随時反映させるべきと提言しています。
避難場所・避難経路を検討する上では、警戒区域の表示箇所以外は土砂災害のおそれが全くないと認識され、警戒区域の指定対象とはならない道路における避難行動中の被災リスクが考慮されていない事例があることも指摘しています。そのため、検討会は国土交通省に対して、こうしたリスクの検討を行い、内閣府などと連携し「土砂災害に関する地区防災計画作成のための技術支援ガイドライン」に反映させるべきと提言しています。
さらに、地区防災計画などの作成については、作成主体(地区住民や作成を支援する行政など)の負担が大きく、なおかつ警戒避難に関する知識が必要となるため、地区住民が土砂災害に関する知識を有する技術者などが作成支援を行うことが望ましいとしています。