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パワハラ防止法(労働施策総合推進法の改正)

掲載:2020年09月04日

執筆者:コンサルタント 東 泰史

用語集

「パワハラ防止法」とは、パワーハラスメント(以後、パワハラ)に対する具体的な対策を事業主に求めることを規定した改正労働施策総合推進法の通称です。これは「パワハラ防止のため、相談体制の整備等の雇用管理上の措置を講じること」を事業主に求めた法律です。なお、「雇用管理上の措置」とは具体的には、事業主によるパワハラ防止の社内方針の明確化や、苦情等に対する相談体制の整備、被害を受けた労働者へのケアや再発防止等が挙げられます。

ちなみに、本法律は2019年5月に参議院本会議で可決された「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」の一部になります。「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」では、女性活躍推進とハラスメント対策の強化を目的とし、5つの法律が改正されました。そのうち、ハラスメント対策強化を目的として改正された法律は4つあり、その一つがこの「パワハラ防止法」になります。

         

「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」の内容

目的 関連法律 対象となるハラスメント
女性活躍推進 女性活躍推進法 -
ハラスメント対策の強化 労働施策総合推進法 パワーハラスメント
男女雇用機会均等法 セクシャルハラスメント
育児・介護休業法 マタニティハラスメント
労働派遣法 派遣労働者に対するハラスメント
表:「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律」の内容

パワハラとは

パワハラとは、同じ職場で働く者に対して、

  1. 職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、
  2. 業務の適正な範囲を超えて、
  3. 精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為

のことをいいます。

たとえば、「経営者が特定の従業員に対して、通常よりも過度な業務量を課し、成果が出ないことを理由に大勢の前で罵倒する」といった事例はパワハラに該当します。他にもいろいろな種類がありますが、パワハラの行動類型は、主に6つの種類に分けることができます。

  種類 具体例
1 身体的な攻撃 上司が部下に対して殴打をして怪我をさせた
2 精神的な攻撃 上司が部下に対して、「役たたず」「バカやろう」等、個人の人格を否定するような発言をする
3 人間関係からの切り離し 自身とウマが合わない同僚に対して、仕事を割り振らない、意図的に会議や打ち合わせに参加させない
4 過大な要求 経験の少ない若手社員に対して、十分な指導もせずに精神的負荷の高い仕事を振り、休日出勤を強いる
5 過小な要求 経験豊富な社員にも関わらず、アルバイトなどと同様の難易度の低い業務(ゴミ拾い、掃除など)を長期間にわたり行わせる
6 個の侵害 宗教、思想、信条、私生活をしつこく詮索したり、職場の飲み会を強要する
表:パワハラの行動類型
厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」を基にニュートン・コンサルティングが作成

なぜ、今パワハラ防止なのか

組織としてパワハラは経営上、重要な課題となっており、未然に防止するための対応が急務となっています。なぜなら、近年、さまざまな業界でパワハラ問題が顕在化しているからです。東証一部上場企業を対象に行われた調査(「パワー・ハラスメントの実態に関する調査研究」平成17年中央労働災害防止協会)によると、43%の企業が「パワハラ」あるいはこれに類似した問題が発生したことがあると回答しています。

また、2019年度に起きたパワハラ、つまり「いじめ・嫌がらせ」に関する相談件数は82,000件余りにのぼります。これは、10年前と比べてもおおよそ2倍以上の件数であり、パワハラはハラスメントの中でも群を抜いて多く相談が寄せられていることが分かります(下図参照)。

表:都道府県労働局等への相談件数
出典:厚生労働省「あかるい職場応援団」

どんな場合に法令違反になるのか

以下は、近年法的に認められたパワハラの代表的な事例です。職場内での優位性や人間関係の切り離しからパワハラの認定を受けた事例があります。

  発生年 会社名、団体名 概要
1 2010 富士通 富士通に勤務していた従業員Aが精神障害の発症の原因は、職場における同僚からの常軌を逸した悪質なひどいいじめと嫌がらせであり、それに対して適切な措置を富士通が怠ったとして、労災療養補償給付不支給処分の取消しを求めた。その結果、労災療養補償給付不支給決定の処分を取り消す判決を言い渡した。
2 2017 フクダ電子長野販売 フクダ電子長野販売で働いていた女性社員4人が、代表取締役の男性からパワハラを受けたなどとして損害賠償を求めた訴訟。会社と男性に計約660万円の支払いを命じ、二審・東京高裁判決で確定した。
3 2018 オリエンタルランド キャラクターの着ぐるみを着てショーやパレードに出演してきた女性社員2人が、過重労働やパワハラで体調を崩したのは運営会社のオリエンタルランドが安全配慮義務を怠ったためだとして、計約755万円の損害賠償を求める訴訟を千葉地裁に起こした。
4 2019 メロディー保育園 静岡県浜松市にあるメロディー保育園で、保育士ら18人が園長と専務からのパワハラおよびセクハラを理由に一斉に退職届を提出。その後、保育園は別会社に事業譲渡された。
5 2019 神戸市東須磨小学校 神戸市の小学校で、30~40代の教員4人が同僚の男性教員に嫌がらせや暴言などのいじめ行為を繰り返し行った。被害者はその後、欠勤し兵庫県警に暴行容疑で被害届を提出。県警は同年に加害者4人の事情聴取を開始し、刑事事件になる可能性もあると言われている。
表:法的に認められたパワハラの代表的な事例
厚生労働省の「あかるい職場応援団 : 裁判例を見てみよう」等を基にニュートン・コンサルティングが作成

どのように企業として対応するべきか

それでは企業としてはパワハラにどのように対応すべきでしょうか。厚生労働省では、以下7つのパワハラ対策を挙げています。具体的には「トップのメッセージを決める」「ルールを決める」「実態を把握する」「教育する」「周知する」「相談や解決の場を設置する」「再発防止のための取り組み」です。これら対策の取り組みスケジュール例と具体例を以下に挙げます。

表:パワハラ対策の取り組みスケジュール例(企業としての基本的枠組みを6カ月で構築する場合)
出典:厚生労働省「パワーハラスメント対策導入マニュアル 第四版」

 

  対策種別 一般例 具体的な企業の対策例
1 トップのメッセージ
  • トップインタビューを実施し、企業としてのメッセージを作成する。社内に対して、自社の重要な課題であることを明確に発信する(例:全社コンプライアンス宣言書を作成する等)
  • パワハラ発生を「人的リスク」と区分し、経営が管理すべきリスクとして位置づけ(金融業・保険業)
  • ハラスメントの原因はコミュニケーション不足であるという仮説のもと、仲間である従業員同士、家族、取引先への挨拶を社長が先頭に立って実施(小売業)
2 ルールを決める
  • パワハラに関するルールの目的や意義を決定する
  • 罰則規定の適用条件や処分内容に関するルールを決める(例:就業規則に盛り込む等)
  • セクハラ防止対策と同様に、就業規則に「ハラスメント防止条項」を制定(建設業)
3 実態を把握する
  • 対象者を網羅的に調査し、パワハラが起きていないか現状把握のためのヒアリングを実施する(例:全社アンケートを実施する等)
  • 労使で協力し、労働組合から全従業員を対象としたアンケートを実施(小売業)
4 教育する
  • 可能な限り全員が受講できるよう定期的な研修の実施(例:階層別ハラスメント研修、中途入社従業員への教育研修等)
  • 啓発活動として、役割別研修(入社時や役職昇進時の研修等)、事業所研修、グループ会社研修等を通して職場で起こり得るハラスメント事例を提示し、ワークショップ形式で検討(製造業)
5 周知する
  • トップのメッセージやルール、相談窓口など関連する情報を積極的に周知する(例:社内掲示板への見える化活動等)
  • 精神科を主とする病院であることを考慮し、患者の目につかないよう職員専用食堂へのパワハラ防止ポスターの掲示(医療・福祉)
6 相談や解決の場を設置する
  • 従業員が相談しやすい環境の整備を実施する(例:社内相談窓口の設置、厚生労働省「こころの耳」の案内等)
  • 各本部や支店ごとに相談窓口担当者を配置し、実際に相談が来た際の対応研修を実施(建設業)
  • 3つの相談窓口を設置し、相談者のニーズによって使い分け(外部機関による相談窓口、社内相談窓口、親会社・グループ単位の相談窓口)(金融業)
7 再発防止のための取り組み
  • 取り組み内容を定期的にモニタリングし、より効果的な取り組みを検討・実施する(例:他社のパワハラ事例をケーススタディとして自社の取り組みに反映させる等)
  • コンプライアンスアンケート、内部通報窓口へハラスメント問題の報告がないことに違和感を覚え、潜在的なハラスメントを掘り起こすべくアンケート項目を見直した(情報通信業)
表:パワハラ7大対策と具体例
厚生労働省の「パワハラ対策7つのメニュー」および「あかるい職場応援団 : 裁判例を見てみよう」等に
基づきニュートン・コンサルティングが事例を編集

企業としてパワハラを防ぐために

今回の法律改正では一見、企業の負担が増えるように思われがちですが、法律でパワハラが明確に定義され、具体的な対策を求められたことで、企業はトラブルやパワハラを未然に防ぎやすく、問題が起きてしまった場合にも、適切な対応ができるようになるというメリットもあります。

事実、先の事例企業の中でも、対策を打った企業の中には、明確にその効果が見られた例もあります。とあるメーカーQ社では過去、ハラスメントを原因とする社内トラブルが起きました。Q社は、ハラスメントによるトラブルがいかに会社にとって悪影響を及ぼすかを実感し、ルール作りとして就業規則にハラスメント全般の禁止規定を盛り込み、外部専門家を招いて全社員に対して研修を実施しました。さらに、役員が率先して現場へ赴き、パワハラになりそうな言動を見かけたらその場で注意することを続けました。こうした全社的な取り組みの結果、パワハラを受けたという訴えは1件もなくなったということです。

パワハラが起こると、被害者への影響だけでなく、就業規則に則った行為者の社内処分、民事上の責任として不法行為責任や債務不履行責任(安全配慮義務違反)などが事業主などに生じます。結果、企業イメージの悪化、訴訟による賠償などの経済的損失など、多大なる影響を及ぼすことが想定されます。今回の法改正を良い機会と捉え、今一度、自組織の仕組みを総点検してみてはいかがでしょうか。

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