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DACCS/BECCS

掲載:2024年08月06日

用語集

大気中のCO2を直接回収して貯留するDACCS(Direct Air Capture with Carbon Storage)や、バイオマスの燃焼により発生したCO2を回収・貯留するBECCS(Bio-Energy with Carbon Capture and Storage)は、工学的プロセスを活用したネガティブエミッション技術です。これらの技術はコストダウンなどの課題があるものの、カーボンニュートラルの実現に寄与するものとして期待されています。

         

ネガティブエミッション技術とは

ネガティブエミッション技術(Negative Emissions Technologies : NETs)とは、CO2を回収・吸収し、貯留・固定化を行うことでCO2除去に資する技術を指します。わが国が2050年までに温室効果ガスの排出量を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを実現するためには、NETsが不可欠とされています。

NETsには、自然のプロセスを人為的に加速する植林・再生林や風化促進のほか、土壌炭素貯留やバイオ炭、工学的プロセスを活用するDACCS・BECCSなどさまざまな技術があります。さらに、海洋肥沃・生育促進やブルーカーボン管理、植物残差海洋隔離、海洋アルカリ化など、海洋におけるCO2吸収に注目したCO2除去技術も数多く開発されています。

NETsの多くは2050年に$200/t-CO2以下の除去コストが期待できる見通しであるものの、開発段階の技術も多く、効果検証や適正なライフサイクルアセスメントが求められます。

ネガティブエミッション技術が注目される背景

2019年6月に閣議決定された「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」と「統合イノベーション戦略2019」に基づき、2020年1月、「革新的環境イノベーション戦略」が策定されました。これは、国内における温室効果ガスの大幅削減とともに世界全体での排出削減に最大限貢献することを目指すもので、農地・森林・海洋へのCO2吸収・固定や大気中のCO2回収の技術開発を進めることなどが明記されています。

さらに、2020年10月に菅総理大臣(当時)の所信表明演説において「2050年カーボンニュートラル」が宣言されると、2020年12月に「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(以下、「グリーン成長戦略」)」が策定され、具体化された内容が2021年6月に公表されました。グリーン成長戦略は14分野の産業について実行計画を示しており、「最終的に脱炭素化が困難な領域は、植林、DACCSやBECCSなど炭素除去技術で対応」するとしています。

また、このような流れを受け、2021年7月に「カーボンリサイクル技術ロードマップ」(2019年6月に策定)が改訂されました。改訂版では、NETsを含む新たな技術分野が追記されるなどの変更が加えられています。

工学プロセスを活用するDACCS・BECCSとは

工学プロセスを活用したNETsであるDACCSとBECCSは、CO2の回収と固定のプロセスが分かれているのが特徴です。

DACCSは「Direct Air Capture with Carbon Storage」の略であり、DAC(Direct Air Capture)と呼ばれる大気から直接CO2を回収する技術と、CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)と呼ばれるCO2をほかの気体から分離して地中などに貯留する技術を組み合わせたものです。DACCSは永続性、測定・モニタリングの簡便性・確実性、拡張性という観点から優れた技術であると考えられ、市場拡大が期待されています。ただし、濃度の低い大気中のCO2回収に多くのエネルギーを消費するため、エネルギー消費の削減が課題となっています。

一方、BECCSは「Bio-Energy with Carbon Capture and Storage」の略であり、バイオマス発電とCCSとを組み合わせ、バイオマスの燃焼後に発生するCO2を回収・貯留するというものです。バイオマス発電や分離回収、CCSはほぼ完成された技術であることや、持続可能なエネルギーの供給とネガティブエミッションが両立できるなどのメリットがある一方、必要面積が大きいことや日本におけるバイオマスの入手性などの懸念点があります。

DACCSとBECCSはいずれもコストダウンやCO2貯留地の確保が課題となりますが、CO2除去効果が明確であり、カーボンニュートラル達成に向けて大きな期待が寄せられています。

参考文献