
温室効果ガス(GHG)プロトコルは、事業者等が任意で温室効果ガス (GHG) 排出量を算定・報告するための国際的な基準です。GHGプロトコルでは、組織が温室効果ガス排出量の算定・報告を⾏う際に遵守すべき事項を定めた「基準(Standard)」と算定・報告を⾏うための実践的なガイドである「ガイダンス(Guidance)」の2種類の文書を定めています。
温室効果ガス(GHG)プロトコルとは
温室効果ガス(GHG)プロトコルを開発した温室効果ガス(GHG)プロトコルイニシアチブは、「世界資源研究所」(WRI)と「持続可能な発展のための世界経済人会議」(WBCSD)を中心として、1998年に発足しました。2001年9月に「事業者排出量算定報告基準(Corporate Accounting and Reporting Standard)」の第一版を発行して以降、複数の基準・ガイダンスや各種算定ツールを公表しています。
GHGプロトコルは、事業者が任意で温室効果ガス排出量の算定・報告を⾏う際の基本的な考え⽅や要求事項を示したものです。しかしながら、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)などの国際的枠組み・イニシアチブによって算定・報告基準として採⽤されており、多くの⽇本企業がこれに準拠した算定・報告を求められている状況があります。
GHGプロトコルにおけるスコープ1~3の考え方
GHGプロトコルは、サプライチェーン全体における温室効果ガスの排出を「スコープ1」「スコープ2」「スコープ3」の3つに分類して捉える点が特徴です。
「スコープ1」は事業者自らによる直接排出のことで、事業者が所有または管理している排出源において、燃料の燃焼や製品製造などを通じて生じる排出を指します。「スコープ2」は、他者から供給された電気・熱・蒸気を使用することに伴う間接排出を指します。例えば、事業者が電力会社から購入する電気が化石燃料の燃焼からつくられている場合などがこれに当たります。
そして、「スコープ1」「スコープ2」以外のあらゆる間接排出を対象とする区分が「スコープ3」です。「スコープ3」には、購入原材料の抽出や生産、購入燃料の輸送、販売した製品やサービスの使用などサプライチェーンの上流・下流における排出が幅広く含まれ、15の細かいカテゴリに分類されています。
GHGプロトコルは、事業者がGHGプロトコルに準拠した温室効果ガス排出量の算定・報告を行う場合、「スコープ1」と「スコープ2」の算定・報告は必須、「スコープ3」は任意であるとしています。
「スコープ3」の算定・報告をめぐる世界の動向
GHGプロトコルや「スコープ」の分類が国際的な標準として広く採用される中、2023年6月に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が公表したIFRSサステナビリティ開示基準(以下、IFRS基準)では、GHGプロトコルに基づく「スコープ3」排出量の算定・開⽰を求めることが示されました。
また、日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)によってIFRS基準と整合性のある開示基準の策定が進められています。2025年3月5日に公表されたサステナビリティ開示基準は、「スコープ3」の開示を含む⼤部分をIFRS基準と整合させた内容となっています。
GHGプロトコル改訂に向けた動き
このようにますます注目が高まっているGHGプロトコルは、現在、改訂に向けた検討が進められています。2022年11月から2023年3月にかけて実施された意見募集には多数の回答が寄せられ、得られた提案は資料(「Corporate Standard Proposals Summary」「Scope 2 Proposal Summary」「Summary of Scope 3 Proposals」「Detailed Summary of Survey Responses on Market-based Accounting Approaches Stakeholder Survey」)として公開されています。また、2024年11月には、標準の開発と改訂手順を示した文書「Standard Development and Revision Procedure」が公開されました。