
2022年8月に経済産業省が公表した「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」によれば、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)とは、「社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを『同期化』させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)」を指します。ここでいう「同期化」とは、「企業が社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味する」とされています。
サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)が提唱された背景
日本企業の収益性や競争力の低迷が続く中、わが国では2014年に「伊藤レポート」、2017年に「伊藤レポート2.0」「価値協創ガイダンス」が公表されるなど、企業の「稼ぐ力」や長期的な企業価値の向上を目指す取り組みが進められてきました。こうした中、経済産業省は2019年11月に「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」を設置し、「伊藤レポート」公表以降の取り組みの成果を振り返るとともに、企業や投資家が対話を通じた価値協創をしていくに当たっての課題や対応策を検討しました。
そして、2020年8月に公表された「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間とりまとめ」では、企業と投資家の認識ギャップが生じるテーマとして「多角化経営、事業ポートフォリオ・マネジメント」「新規事業創出・イノベーションに向けた種植え」「社会的価値(ESG)と経済的価値(稼ぐ力・競争優位性)の両立」の3点を指摘。それらの解決の方向性として、「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を提唱しました。
さらに、2021年5月には同検討会の後継となる「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」、同年11月には「価値協創ガイダンスの改訂に向けたワーキング・グループ」を設置。SXの実現やそのための価値協創ガイダンスの改訂に向けた検討を行い、2022年8月には「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」および「価値協創ガイダンス2.0」を公表しました。
「伊藤レポート3.0」「価値協創ガイダンス2.0」のポイント
「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」は、サステナビリティへの対応が経営戦略の根幹をなす要素となりつつある現状は、日本の企業・投資家をはじめとするインベストメントチェーン全体にとって試練であるとともにチャンスでもあると指摘します。そして、SXの実践こそがこれからの日本企業の「稼ぎ方」の本流となっていくとしています。
SX実現のための具体的な取り組みとしては、「(1)社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿の明確化」「(2)目指す姿に基づく長期価値創造を実現するための戦略の構築」「(3)長期価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと、実質的な対話を通じた更なる磨き上げ」の3つを挙げ、バリューチェーンやインベストメントチェーン上の多様なプレイヤーがSXを効果的に推進していくことが必要であるとしています。
また、「価値協創ガイダンス2.0」は、2017年策定の「価値協創ガイダンス」を改訂し、SX実現に向けた経営の強化や効果的な情報開示、建設的・実質的な対話を行うためのフレームワークとしてアップデートしたものです。持続可能な社会の実現に向けて企業が長期的かつ持続的に価値を提供することの重要性をより強調しているほか、「長期戦略」の項目を新設するなど、「伊藤レポート3.0」で整理したSXの要諦を踏まえた改訂がなされています。
「SX銘柄」の創設
日本企業がSX視点による価値創造を進めるためにはインベストメントチェーン全体でSXを推進することが重要であるとの課題意識の下、経済産業省と東京証券取引所は2023年2月、「SX銘柄」の創設を公表しました。これは、SXを通じて持続的に成長原資を生み出す力を高め、企業価値向上を実現する先進的企業群を「SX銘柄」として選定・表彰するというものです。初回となる「SX銘柄2024」は15社が選定され、2024年4月に公表されました。