TISFD(不平等と社会関連財務情報開示に関するタスクフォース)
掲載:2025年01月15日
用語集

TISFD(不平等と社会関連財務情報開示に関するタスクフォース)は、不平等・社会関連課題の情報開示フレームワークを開発する国際組織として、2024年9月に設立されました。TISFDは、「より公正で強固な社会と経済を創出するビジネスおよび金融慣行を奨励すること」を目的として、企業や金融機関の活動による人々への影響、依存関係、リスク、機会を理解し、報告するための推奨事項とガイダンス策定を進めています。
TISFD設立の背景
TISFD設立の背景には、サステナビリティ情報開示やESG(環境・社会・企業統治)投資への世界的な関心の高まりがあります。2015年に発足したTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)は、2017年に「TCFD提言」を公表し、気候変動に関する適切な情報開示のフレームワークを提示。これを基に、2023年6月には国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)がサステナビリティ情報の開示基準を策定し、2024年3月には日本においてもサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が開示基準の草案を公表しました。
また、TCFD に続き2021年6月に発足したTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)は、TCFDよりさらに広い「自然環境関連リスク」に注目するものです。自然資本や生物多様性など幅広い内容を対象として、企業が自然関連財務情報を適切に開示できるようにするためのフレームワークを提供しています。
このような流れの中、ESGの“S”に当たる、不平等と社会課題に取り組む国際的イニシアチブとして2024年9月に発足したのがTISFDです。TISFDは、もとは別々に進められてきたTIFD(不平等関連財務情報開示タスクフォース)とTSFD(社会関連財務情報開示タスクフォース)の準備組織が統合したことで誕生しました。TISFDのビジョンやアプローチ、作業計画等については、公式サイトで公開されている資料「People in Scope」で詳説されています。
TISFDの必要性
「People in Scope」によれば、TISFDが必要とされる背景には、世界中の人々が増大する不平等に直面している現状があります。テクノロジーやグローバリゼーションは人々に恩恵を与えただけでなく、過去最高水準の所得と富の不平等や不安感の増大、不公正、政治的な周縁化などをもたらしました。現在、世界では、いまだに何億もの人々が基本的ニーズを満たしておらず、国内における貧富の差、国家間のギャップなど、さまざまな課題が存在します。TISFDは、「これらの社会的な課題は、市場関係者にリスクと機会を提供する」と捉え、「市場関係者が行動を起こすためには、意思決定に有用な情報が不可欠である」としています。
取り組みの範囲とアプローチ
TISFDは、企業や金融機関に関わる不平等や社会課題に対して、人々が中心的なステークホルダーであるとの理解を持ち、統合され一貫したアプローチを行うとしています。さまざまな次元の不平等に関連する影響と依存関係、リスク、機会を考慮するとしており、ここにはジェンダーや人種、年齢などのグループ間における「水平的不平等(horizontal inequalities)」や、賃金や平均余命などに恵まれているか否かという「垂直的不平等(vertical inequalities)」、「場所に基づく不平等(location-based inequalities)」のほか、機会の不平等なども含まれるとしています。
また、TISFDは、同組織がこれから生み出していく「成果物」として、「グローバルな情報開示のフレームワーク」「ガイダンスと推奨事項」「教育と能力構築のリソース」「概念的基礎」「一連のエビデンス」の5つを提示。さらに、TISFDの成果物に適用される「設計原則」として、「市場で利用できる」「企業行動基準に合致する」「報告基準と統合されている」「サポートとなり、参考になる」「人々と地球をつなぐ」「世界に関連性がある」の6つを挙げています。
TISFDのビジョンと今後の展望
TISFDは「People in Scope」において、短期的(開示フレームワークの開始から1~2年)・中期的(2~3年)・長期的(5~10年)目標を公表しています。さらに、具体的な「作業計画」として、TISFDの取り組みは「準備」「開始」「ステークホルダーの能力構築」「定義と洗練」「フレームワークの開発とテスト」「公表」「実施と提唱」のフェーズで進められることを示しています。
この計画によれば、TISFDは2025年後半には開示フレームワークのベータ版の開発に着手する予定であり、2026年末には開示フレームワークの最初の公開版を公表する見通しとなっています。