
「降灰予報」は、気象庁が火山噴火によって生じる火山灰(降灰)について、3段階で発表します。2008年に降灰予報を開始し、2015年3月にその発表内容を改良しました。この記事では、降灰予報の詳細や発表のタイミング、噴火警報との違い、降灰による影響について説明します。
降灰予報とは?火山灰の範囲と量を予測
降灰予報とは、火山噴火によって生じる火山灰が、「どこに」「どれだけの量で」降るかについて、気象庁が発表する重要な情報です。この予報では、噴火直後に、風によって流される小さな噴石(1cm以上)が落下する範囲についても速報として発表されます。さらに火山活動が活発化していれば「もしも今日、噴火が起こるとしたら、この範囲に降灰があります」という事前情報も提供されます。
降灰量の階級と降灰予報発表の流れ
降灰量の階級
降灰量は、火山灰が降り積もった際の厚さのことで、その厚さに応じて、「多量(1mm以上)」「やや多量(0.1mmから1mm)」「少量(0.1mm未満)」の3階級で表現されます。降灰の影響を判断するための目安のひとつになります。
降灰量の計算では、1mmの降灰は1kg/㎡の重さとされています。さらに、降雨が伴う場合の重さは約1.7倍になるとされています。
名称 | 厚さ | とるべき行動 |
---|---|---|
多量 | 1mm以上 | ※降灰への防災対応が必要 運転や外出を控える |
やや多量 | 0.1mm~1mm | ※降灰への注意が必要 マスクなどで防護する 徐行運転をする |
少量 | 0.1mm未満 | 窓を閉める 車窓の除灰を行う |
※気象庁「降灰予報~火山灰・小さな噴石から身を守るために~」、「降灰予報の説明」をもとにニュートン・コンサルティングが作成
降灰予報発表の流れと特徴
降灰予報は、「噴火前」「噴火直後」「噴火後」の3段階に分けて気象庁より発表されます。各段階での予報内容は以下の通りです。
段階 | 発表条件 | 発表タイミング | 発表内容 | |
---|---|---|---|---|
噴火前の降灰予報(定時) | 噴火警報が発表され、人々の生活に影響を及ぼす降灰が予想される場合 | 定期的に3時間毎(2時、5時、8時、11時、14時、17時、20時および23時) | 噴火した場合の18時間先(3時間区切り)までに予想される降灰範囲と小さな噴石の落下範囲 | |
噴火直後の降灰予報(速報) | 噴火の発生を通報する「噴火に関する火山観測報」を受けて発表 | 事前計算された降灰予報結果から適切なものを抽出し、噴火後速やかに(5~10分程度)で発表 | 1時間先までに予想される降灰量分布や小さな噴石の落下範囲 | |
降灰予報(定時)が発表中の火山 | 「やや多量(0.1mmから1mm)」以上の降灰が予測された場合に発表 | |||
降灰予報(定時)が未発表の火山 | 噴火に伴う降灰域を速やかに伝えることを目的に、予測された降灰が「少量(0.1mm未満)」の階級であっても必要に応じて発表 | |||
噴火後の降灰予報(詳細) | 噴火後に実際の観測データ(噴火時刻、噴煙高など)をもとにした、より精度の高い予測を行い発表 | 降灰予測計算結果にもとづき、噴火後20~30分程度で発表 | 噴火から6時間先までの降灰量分布や降灰開始時刻 | |
降灰予報(定時)が発表中の火山 | 「やや多量(0.1mmから1mm)」以上の階級の場合に発表 | |||
降灰予報(定時)が未発表の火山 | 噴火に伴う降灰域を速やかに伝えることを目的に、予測された降灰が「少量(0.1mm未満)」の階級であっても必要に応じて発表 | |||
降灰予報(速報)が発表中の火山 | 予想降灰量によらず、降灰予報(詳細)も発表 |
※気象庁「降灰予報の説明」をもとに、ニュートン・コンサルティングが作成
降灰予報と噴火警報の違い
降灰予報と噴火警報の違いは、予報の対象となる火山災害、予報が発表される範囲、予報発表後の防災対応スピードです。
降灰予報は、火山噴火による火山灰、小さな噴石に焦点を当てた予報で、注意喚起や防災対応を行う目的で発表されます。噴火警報よりも予報範囲が広く、発表を受けることで比較的防災対応への時間を有することができます。
噴火警報は、火砕流や大きな噴石、泥流など生命に危険を及ぼす火山現象に対して、噴火発生から短時間で火口周辺や居住地域に達する場合や、それら火山現象の拡大が予想される場合に気象庁から発表されます。噴火予報は、火山活動が静穏である場合や、噴火警報には及ばない場合に発表されます。
さらに、噴火警報と噴火予報を運用している全国111の活火山のうち、49の活火山では、「噴火警戒レベル」を付して噴火警報と噴火予報を発表します。
降灰による影響
降灰による直接的な命の危険性は低い一方で、社会機能やライフラインに長期的な影響を及ぼします。火山灰は除去しない限り自然には消失せず、物資輸送やインフラ機能に深刻な支障をもたらす可能性があるため、適切な除灰対策が不可欠です。また、火山灰は風で再移動したり、雨で固まる性質があり、時間の経過とともに影響が広がることも懸念されます。
ここでは、気象庁や内閣府が公表している降灰による主な影響(想定)をまとめています。
(1)交通への主な影響
- 道路:
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- 火山灰の堆積により、スリップ事故が発生する
- 降灰により視界不良となり、自動車の運行に支障が生じる
- 火山灰の粒子により、車のフロントガラスなどが損傷する
- 航空:
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- 航空機などのエンジンが火山灰を吸い込み故障する
- 空港が閉鎖になったり、滑走路の除灰に時間を要する
- 鉄道:
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- 降灰により鉄道の車輪やレールが導電不良となる
- 信号や踏切、ポイントの動作に支障をきたす
- 視界不良やエンジンフィルタの目詰まりを起こす
降雨時は火山灰が固まり、5mm程度の降灰でも道路や鉄道、航空機の滑走路などが使用不可となる可能性があります。
(2)ライフラインへの主な影響
- 電力:
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- 電柱や電線に火山灰が付着することで停電を引き起こす
- 発電所や変電所の設備を傷めたり、冷却系統の機能を低下させる
- 上下水道:
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- 浄水場への降灰により水質を低下させるだけでなく、給水などに支障が生じる
- 下水管や側溝の詰まり、沈澱池への満砂を引き起こす
- 通信:
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- 電波障害が起きたり、電気設備等へ影響する
(3)建物の主な被害
- 湿った火山灰が30cm積もると、木造家屋が倒壊する
- 小さな噴石により太陽パネルや家屋の屋根が破損する
(4)商工業への主な影響
商品や精密機器に火山灰が積もることで、商品の破損、精密機器が故障に繋がる
(5)農林水産業への主な影響
- 火山灰の重みでビニールハウスが損傷する
- 降灰により樹木が枯死したり、火山ガス付着成分が葉を変色させる
- 家畜の餌が枯れたり、目や皮膚に障害をきたす
- 海底などが灰で覆われることで収穫に影響する
(6)人的被害
- 目や鼻、のど、気管支に異常が起きる
- ぜんそく症状の悪化や呼吸器疾患が発生する
これらの影響を受け、広域降灰が予想される首都圏などでは、2025年3月に公表された「首都圏における広域降灰対策ガイドライン」に基づき、事業継続計画(BCP)の策定と具体的な備えを進めることが求められています。
降灰予報の情報は、気象庁ホームページのほか、テレビやラジオ、国の防災機関や地方公共団体を通じて発信されます。火山灰による影響を最小限にとどめるためにも、平時から降灰リスクを意識し、防災対策に取り組んでいきましょう。