日本取締役協会はこのほど、「未上場企業におけるコーポレートガバナンス提言書」を公表しました。
本提言書は、日本の法人企業の99.78%を占める未上場企業について、ガバナンス強化策を提示したものです。コーポレートガバナンス・コードの遵守や社外取締役の設置義務などが課されていない未上場企業の経営においては、組織的な意思決定やリスク管理が後回しにされる傾向があるとしています。
そのため、未上場企業を①スタートアップ企業、②昭和型企業、③非上場大企業の3つに分類し、特徴と課題を分析した上で、ガバナンス改革の方向性を提示しています。ここでは提言の一部を紹介します。
まず、スタートアップ企業については、Exit(上場またはM&A)を目指し急速に会社規模を拡大していくという性質上、制度設計が追いつかず脆弱性を抱えやすいとして、コーポレートガバナンスの必要性を訴えました。日本取締役協会は、創業初期から経営の透明性と説明責任を確保するための最低限のルール整備を意味する「ミニマムコーポレートガバナンス」の導入を提唱しており、スタートアップ企業向けの簡易チェックリストも掲載しています。
次に、昭和型企業に関しては、外部アドバイザーの設置や勉強会を中心とした「スモールスタート・ガバナンス」を提案しています。これは、①月1回アドバイザリーボードを開催する、②経営会議体制の作り方・運営の仕方を学ぶ、③役職者に対して、利益貢献度合いに配慮した「業績評価制度」を導入する、といったステップに沿い、コーポレートガバナンスを段階的に導入できるよう促すものです。
さらに、昭和型企業において最も大きなリスクになる可能性があるとして、セキュリティリスクへの対応を最優先事項に含めることを求めました。アドバイザリーボードの設置により、戦略やリスクマネジメントについて助言を得られる機会を作ることを推奨しています。
非上場の大企業に対しては、非上場企業を維持することのメリットを活かしながら、上場企業に求められるコーポレートガバナンスを取り入れることを提言しています。
非上場大企業が直面しやすい課題としては次の3つを挙げました。①創業家や創業家に忠信を持つ特定人物への依存度が高いため、後継者を定める前にこのような人物が経営から退いた場合に、権力基盤が安定せず経営が迷走してしまうことが多いこと、②会社の資産と創業家の資産が混同されやすいこと、③創業家依存度が高いために経営としての安定性や規律を維持できず、競争力を失ってしまうリスクがあること。これらの課題解決に求められるのは、経営者が持つ権力への牽制機能を備えたガバナンスの仕組みであると述べています。
このほか、未上場企業と上場企業の両者を対象とした本質的な企業経営に関する議論などについても取りまとめられています。