日本経済団体連合会(経団連)は12月16日、意見書「持続的な成長に向けたコーポレートガバナンスのあり方」を公表しました。
本意見書は、2015年の適用から10年が経過したコーポレートガバナンス・コードによる、日本企業のガバナンス改革の現状を踏まえ、企業と投資家が中長期的な価値向上に向けて取り組むべき課題と果たすべき役割について提言したものです。
コーポレートガバナンス・コード適用後の日本企業は、社外取締役の増加や政策保有株式の減少、自己資本利益率(ROE)といった指標を意識した経営など、ガバナンスの形式は整備されたと分析しています。一方で、実質が伴っていないという指摘や、企業利益が株主への分配に過度に偏り、従業員・取引先などへの還元や成長投資が不十分なため、「稼ぐ力」の強化につながっていない、という指摘がされています。
経団連は、これらの課題の背景に投資家の存在があると明言しています。特に、短期的な利益確保を求めるアクティビストや形式的な議決権行使を行う一部のパッシブ投資家、それらを支える議決権行使助言会社やESG評価・データ提供機関に対して、必ずしも、企業との建設的な対話に十分寄与せず、中長期的な価値向上に益する機能を発揮していない実態が指摘されているとしました。そのため、投資家(アセットオーナー/アセットマネージャー/議決権行使助言会社/ESG評価・データ提供機関)には、企業の「共創者」としての役割を果たすことを求めるとして、具体的な行動指標を示しました。
経営者に対しては、自社のパーパス(存在意義)と中長期的な成長の方向性を、経済的・社会的価値の両面から価値創造ストーリーとして明示し、積極的な成長投資に取り組むべきと明記しています。
また、現在検討が進められているコーポレートガバナンス・コードの第3次改訂に関しての提言も盛り込まれました。コーポレートガバナンス・コードは企業の自律的経営を支え、後押しすることが大前提だとして、企業行動を制御するような過度な細則化をせず、大胆なスリム化とプリンシプル化を図ることが求められると強調しました。
その上で、改訂の際には次に挙げる3つを柱とすべきとしています。①「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則等は、可能な限り最小限にとどめる、②経営者自らが考え抜き、自らの言葉で語ることを促すような原則等とする、③本コードの原則等から例示は除き、別途、多様な好事例を示して周知するなど運用面で企業の取り組みを促す。
このほか、株主総会のあり方や有価証券報告書の開示内容・手法、株主権限のあり方についても、制度の見直しが必要であると言及しています。定時株主総会前の有価証券報告書の開示は、2025年3月に金融担当相の要請を受けて実施された結果、企業側の実務負担が増大したものの、投資家からの反応があったのは約1割(※)でした。そのため、株主が議決権行使をする上で真に有益な情報を、企業と株主との対話を通じて柔軟に提示する仕組みとするべき、という見解を示しました。
(※)経団連「株主総会前開示アンケート結果」(経団連の全会員企業・団体を対象に2025年5月~6月に調査)によると、2025年の株主総会前に有価証券報告書を開示した181社のうち、投資家の反応についての有効回答数は129社。その中で投資家から「前向きなフィードバックあり」と回答した企業は14社(11%)でした。