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テロから身を守るには ~個人および企業としての対策~

掲載:2022年05月13日

コラム

近年、世界各国でテロの脅威が高まっています。特にこの数年は先進国でもテロの発生が目立つようになり、いつ日本で起きてもおかしくない状況になってきていると言えるでしょう。実際に日本は、国際テロ組織「アル・カイーダ」幹部やISIL(※)からテロの標的として名指しされています。さらに、過去に国際テロリストが日本に不法入出国を繰り返していたことも分かっています。テロを自分自身とは直接関係ない、遠い国の出来事であると捉えずに、普段から対策をしておくことが重要です。本稿では、そもそもテロとは一体何を指すのか、またその現状、そして個人または企業としてどのような対策を取るべきかについて解説していきます。
※:Islamic State of Iraq and the Levant、イラク・レバントのイスラム国

         

テロの定義と種類

まず、「テロ(テロリズム)」の定義について確認しておきましょう。世界共通のテロの定義は存在しませんが、一般的にテロと言えば「何らかの政治的メッセージやイデオロギーの下、社会に対して強い恐怖を抱かせることを目的とした暴力のこと」を指します。警察庁組織令第39条では、テロとは「広く恐怖又は不安を抱かせることによりその目的を達成することを意図して行われる政治上その他の主義主張に基づく暴力主義的破壊活動をいう」と規定されています。テロと混同されがちなのが「無差別殺人」ですが、無差別殺人は単なる自己の境遇への不満の発散などが動機となっているため、上記の定義に則ると「テロ」には該当しません。

また、テロにもいくつか種類があります。中でも甚大な被害をもたらすものに「NBCテロ」や「CBRNEテロ」があり、それぞれテロに用いられる兵器の英語名の頭文字をとったもの(※1)です。

※1:化学(Chemical)、生物(Biological)、放射性物質(Radiological)、核(Nuclear) 爆発物(Explosive)

テロの現状

世界各地で近年発生したテロの事例(特に先進国かつソフトターゲット〔※2〕が標的となった事例)を表1にまとめました。これを見ると、先述の通り先進国においてもテロが頻発していることが分かります。

※2:警備が比較的手薄になりがちでテロリストにとって攻撃がたやすい人または場所(不特定多数が出入りする観光地、レストラン、クラブ、イベント会場、空港、駅、公園など)

 

【表1:世界各地で発生した最近のテロ(一部)】
月日 発生国 概要
2020 11/2 オーストリア オーストリアの首都・ウィーン中心部の6か所で、男が銃を乱射し4人が死亡、23人が負傷した。実行犯は20歳の北マケドニア及びオーストリアの二重国籍者で、警察が現場で射殺した。3日、ISILが犯行声明を発出した
6/20 英国 英国南部・レディングの公園で、リビア出身の男(25歳)が刃物で市民を相次いで襲撃し、3人が死亡、3人が負傷した。警察は犯人を逮捕し、テロ事件として捜査
4/27 フランス フランス首都パリ北郊・コロンブで、フランス人の男が路上で取り締まりを行っていた警察部隊に車両で突入し、警察官3人が負傷。逮捕された男はISILのために実行した旨主張し、男の車両内からはISILに忠誠を誓うなどと記載した書簡及び刃物が発見された
2019 11/29 英国 英国首都ロンドンのロンドン橋北詰付近に所在する集会所で、男が刃物で集会参加者を襲撃するなどし2人が死亡、3人が負傷した。その後、男はロンドン橋上で警察官に射殺された。30日、ISILと関連を有する「アーマク通信」が、ISIL戦闘員による犯行と主張した
2018 11/9 オーストラリア オーストラリア南東部・ビクトリア州都メルボルンで、ソマリア出身の男が乗り付けたピックアップトラックを炎上させた後、通行人を刃物で襲撃し1人が死亡、2人が負傷した。同日、ISILと関係を有する「アーマク通信」が「イスラム国の戦闘員が実行」と主張
出典:公安調査庁 「世界のテロ等発生状況」
 

時代によって変遷するテロ

年々脅威が高まっているテロですが、その傾向は時代によって移り変わります。現代のテロは種類が多様化し、人々の日常生活に近い所で発生する可能性が高くなっています(表2参照)。

【表2:テロの傾向の変化】
  過去のテロの傾向 現代のテロの傾向
狙い 政治家、軍、警察など 一般市民も対象。大規模な集客施設など、警備が緩やかな「ソフトターゲット」を狙う
攻撃方法 暗殺など単純な方法 攻撃パターンが複雑化(爆破テロ、化学テロ、生物テロ、核テロ、放射能テロなど)
動機 明確な動機と政治的な目標 貧困や宗教など多種多様
テロリストの体制 集団 「ホームグロウン型テロリスト(※3)」
「ローンウルフ型テロリスト(※4)」の台頭
出典:PSIA公安調査庁「国際テロリズム要覧2021」、及び外務省「我が国の国際テロ対策」を基に筆者作成

 

※3:国内で生まれ育った人が国外の過激派組織に共鳴し、自国内でテロを起こす
※4:「一匹オオカミ」と訳され、社会的に知られている大がかりなテログループに関わらず、単独もしくは少数でテロを起こす

個人としてのテロ対策

テロに遭わないために

特に海外旅行に行くときなどは、行き先によっては日本よりもテロに遭遇する可能性が高くなります。渡航前に外務省の『海外安全ホームページ』を確認したり、外務省の海外安全情報配信サービス『たびレジ』に連絡先を登録したりして、最新情報を収集するように心がけましょう。また、渡航先でも標的にならないようなるべく目立つことはせず、周囲の不審者や不審物に充分に注意を払うようにしましょう。

テロに遭遇してしまったら

テロに遭遇してしまった際に具体的にどう動くべきなのか、外務省では一般的な留意事項を示しています。ここでは「爆弾、銃器などを用いたテロに遭遇した場合」と「刃物を用いたテロに遭遇した場合」を抜粋して紹介します。

【爆弾、銃器などを用いたテロに遭遇した場合】

  • 頑丈なものの陰に身を低くして隠れる
  • 周囲を確認し、可能であれば、銃撃音等から離れるよう、速やかに、低い姿勢を保ちつつ安全なところに退避する。閉鎖空間の場合、出入口に殺到すると将棋倒しなどの二次的な被害に遭うこともあり、注意が必要
  • 爆発は複数回発生する可能性があるため、爆発後に様子を見に行かない

【刃物類を用いたテロに遭遇した場合】

  • 犯人との距離を取る。周囲にある物を使って攻撃から身を守る

出典:外務省「欧州でのテロ等に対する注意喚起」より抜粋

 

なお、海外ではテロへの対応の仕方を短く覚えやすいフレーズで呼びかけています。下記はイギリスとアメリカの例になります。

  • イギリス:逃げる、隠れる、通報する(RUN、HIDE、TELL)
  • アメリカ:逃げる、隠れる、戦う(RUN、HIDE、FIGHT)

ここでポイントとなるのは、両者ともRUNとHIDEが最初にきているという点です。まずは現場から離れるよう努めること。もしそれが不可能である場合は犯人に見つからないよう身を隠すこと。何よりも自らの身の安全を確保することが最優先であり、イギリスはその後の対応として警察に通報すること、アメリカは身の安全を守るよう最大限努めた後の最終手段として犯人と戦うことを、それぞれ強調しています。

企業としてのテロ対策

テロは民間企業にとっても他人事ではありません。海外拠点を持つ企業や従業員の海外出張が多い企業にとっては切迫した問題です。また、国内でも電気やガスなどの社会インフラに関わる企業や公共交通機関などはテロの標的になる可能性が高いと言えます。

企業としてのテロ対策では、実際にテロが起きた場合を想定して、有事の際の対応力を強化することが特に重要です。そのためには、ハード面とソフト面の両方から対策を打つことが必要になります。ハード面の対策では、備蓄、防犯カメラの設置、ゴミ箱や窓ガラスといった設備の耐爆化などが挙げられます。ソフト面の対策としては、様々な危機事象において利用できるオールハザードBCP(事業継続計画)の策定、従業員への対策の周知・教育、訓練の実施などがあります。オールハザードBCPにおいては、初動部分は共通ルールに加えてテロ対応の個別ルールを決めること、BCPはリソースベースで対策を策定することがポイントとなります。また、周知・教育や訓練は一度実施すれば十分というわけではなく、継続的に行う必要があります。

テロ対策に当たっては、一人ひとりがテロの脅威を認識し、他の災害時対応と同様に「自分の身は自分で守る」という意識を持って備えておくことが何よりも大切です。本記事が個人として、そして企業としてテロから身を守るために出来ることは何かについて改めて考え、見直す際のヒントになれば幸いです。

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