シナリオ分析とは?不確実な未来に備えるリスクアセスメント手法
| 執筆者: | コンサルタント 貫洞 優紀 |
国際情勢の悪化や、産業構造を激変させる技術革新、地球規模の環境変化など、こうした予測が難しいリスクに立ち向かうための分析手法が「シナリオ分析」です。未来が不透明で判断材料が乏しいなかでも、「想定外の事態」を具体的にイメージすることで、有効な対策が見えてきます。重要な戦略決定やリスク管理の場面で、判断のよりどころとなるリスクアセスメント手法です。
シナリオ分析とは
シナリオ分析とは、将来起こり得る複数の可能性や未来像を描き、それぞれの状況(シナリオ)で何が起こり得るのかを検討するリスクアセスメント手法です。最大の特徴は、不確実性の高いリスクに対して「一点予測」に頼るのではなく、複数のもっともらしい筋書きを並行して描き出す点にあります。
身近な例でいえば、お店の売上を考えるときに「悲観シナリオ(売上が大きく落ち込む場合)」「楽観シナリオ(売上が大幅に伸びる場合)」「中庸シナリオ(現状維持や小幅な変化にとどまる場合)」のように複数の未来を想定することがあります。こうした考え方がまさにシナリオ分析であり、不確実性の高いリスクをより立体的に捉える助けとなります。
ここでいう「不確実性の高いリスク」とは、「事象や状況のイメージ自体はできるものの、発生の可能性を精緻に予測することが難しいリスク」のことを指します。例えば「地政学リスクの深刻化」「破壊的技術の登場」「気候変動の進行」といったテーマは、従来の思考の延長線上では十分に想定しにくいため、シナリオ分析が特に有効に機能する領域です。
では、この手法を使うメリットやデメリットはどういうところにあるのでしょうか?
シナリオ分析のメリット・デメリットと活用場面
シナリオ分析を活用すると、一つの予測に縛られず複数の未来のシナリオを考慮することで、経営者や担当者は広い視野を持つことが可能になります。そのため、様々な未来像に適応するための戦略的な選択肢を検討し、より適切な意思決定をすることができるようになります。
一方デメリットとしては、やり方によっては時間がかかり、多くのリソースや知識・技術を必要とするという点が挙げられます。また、データや根拠が不十分な状態で分析を進めると、現実離れしたシナリオが作成されてしまう可能性があります。
このようなメリットやデメリットを踏まえると、シナリオ分析は、中長期の経営や事業計画の策定など、下記に示した例のような将来の不確実性を前提に戦略的な意思決定が求められる場面で特に有効な手法といえます。
活用場面の例
- ・中長期計画と地政学リスク
- 事業拡大のターゲットとして海外市場を検討しているが、「貿易摩擦が激化するシナリオ」「現状が維持されるシナリオ」「進出先地域との協力体制が強まるシナリオ」のように複数の未来像を描くことで、拠点配置やサプライチェーン戦略を柔軟に検討できる。
- ・事業企画における破壊的技術の影響
- 生成AIなど新しい技術が、自社の事業領域にどんな影響を与えるかは読み切れない。例えば「規制が進んで普及が遅れる」「一気に普及して競合環境が激変する」「自社が先行して優位を築ける」といったシナリオを描くことで、リスクだけでなくチャンスの幅も見極められる。
- ・複雑要素が絡む人材・気候変動リスク
- 人材の採用難や働き方の変化、気候変動による自然災害リスクなど、多様な要素が重なり合うと、未来像は一層複雑になる。そこで「人材確保が順調に進む場合」「採用難が長期化する場合」「災害頻発で事業継続が難しくなる場合」などを並行して想定すれば、組織体制や投資判断を立体的に検討できる。
こうした場面でシナリオ分析を取り入れることで、「予測不能だから備えようがない」と考えるのではなく、「不確実性を前提にした柔軟な選択肢づくり」が可能になります。
シナリオ分析のステップ
シナリオ分析は大きく4つのステップからなります。
- ステップ1:目的と範囲を定める
- ステップ2:将来の変化・不確実性要因を洗い出す
- ステップ3:シナリオを構築する
- ステップ4:リスクと対応を検討する
それぞれのステップにおいて「何をすれば良いのか」を、身近でわかりやすいテーマを例に解説します。皆さんがコンビニオーナーになったと仮定して、とある駅前再開発エリアに出店しようかどうか迷っているとしましょう。
その前提でシナリオ分析のステップと実施概要、それを実際に行った場合にどんなアウトプットになるのかを以下の表にまとめてみました。
【表1】シナリオ分析のステップと実施概要
| 番号 | ステップ名 | 実施概要 | 具体例(コンビニ出店判断) |
|---|---|---|---|
| ① | 目的と範囲を定める | 出店可否を判断するため、売上を左右する主要変数の将来変動を整理する |
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| ② | 将来の変化・不確実性要因を洗い出す | 売上を構成する要素のうち、変動が大きく予測が難しいものを列挙する |
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| ③ | シナリオを構築する | 上記の2要素を軸に取り、4つの未来像を描く |
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| ④ | リスクと対策を検討する | 各シナリオでのリスクと打ち手を整理し、出店条件を明確化する |
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以上がシナリオ分析の標準的なステップです。②で想定する要素を変更すると、また別の切り口での分析ができますし、多角的な検証が可能な手法といえるでしょう。
最後に、分析結果をより有効なものにするために、シナリオ分析を進める上で陥りやすい落とし穴と対応の勘どころを3つ取り上げて解説します。
シナリオ分析でよくある落とし穴と対応の勘どころ
シナリオ分析は、不確実な未来に備える有効な手法ですが、実務に行う際にはいくつかの落とし穴があります。
まず多いのが、「結論ありき」でシナリオを作ってしまうことです。出店可否や方針を先に決め、その理由づけとして都合のよい未来像だけを描くと、分析は形骸化します。対応の勘どころは、最初に「何を不確実とみなすか」を複数人で議論し、意図的に異なる見方を取り込むことです。
次に、「不確実性の選定が曖昧」になりがちな点です。影響が大きくても予測しやすい要素(例:固定費)を選んでしまうと、シナリオの意味が薄れます。軸は「影響度」と「予測の難しさ」の両面で選ぶことが肝心です。
また、別の落とし穴として、選んだ要素を定性的な記述だけで済ませてしまう点があります。これではシナリオ間の違いが曖昧になり、意思決定に使いづらくなります。数値化できる部分(例:人流変動10%で売上が何%変わるか)を最低限設定し、シナリオ間の差を定量的に示すことが信頼性を高めます。
さらに、「シナリオを描いて終わり」にしないことも重要です。作成したシナリオを戦略や投資条件に反映させる仕組みが十分に整っていない場合、未活用のままとなってしまいます。シナリオごとに「どの前兆を観測すればその未来が来るか」「どの段階で方針を見直すか」といった“トリガー条件”なども合わせて設定しておくと、意思決定のプロセスに取り入れやすくなるでしょう。
最後に、シナリオ分析は“未来を当てるための手法”ではありません。目的は、将来の変化に柔軟に対応できる考え方や仕組みを整えることにあります。多様な可能性を受けとめ、変化にしなやかに対応できるようにしておくことこそ、実務における最大の成果です。